子供のころ、世界の民族衣装がプリントされたハンカチを持っていた。
中国、モンゴル、韓国、アメリカ、フランス、スコットランド、エジプト、ペルー、ジャマイカ、ロシア、日本…。
色とりどりの美しい民族衣装に身を包んだひとたちが整然とひしめきあっているそのハンカチを、私はとても大切にしていた。
いつもはきれいにたたんで箪笥にしまっておき、ときどき畳の上に広げて眺めた。

そうして知らない国のことを想像した。


なかでも気に入っていたのは、ハンガリーの衣装だった。
黒いベストを着て、緑と赤と白の地が入ったふんわりとしたスカートだったように思う。
あのハンカチはいまでも実家の箪笥の奥にしまわれているのだろうか。


そんなことを思い出しながら、ブダ側にあるブダイ・ヴィガドーに行った。
ブダイ・ヴィガドーは国立フォークアンサンブルの本拠地で、ハンガリー舞踊が見られる。

そうしてブダイ・ヴィガドーに展示してあった衣装は、まさにその幼少の記憶と同じ民族衣装だった。

黒いちいさなベスト、繊細に編まれた白いレース、色鮮やかなスカート。


私がその日に見た舞台はハンガリーの伝統的なものではなく、伝統を取り入れつつも前衛的でストーリーテリングなダンスだったけれど、それでも十分にハンガリーの踊りを楽しめた。


なによりも舞台の上でひらひらとしているのは、子供のころに眺めていたあの民族衣装なのだ。
そのことだけでも十分にわくわくとする出来事なのだった。


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