ブダペストに着いたら、温泉に行くといい。
と、以前このあたりを旅したことがある後輩に聞いていた。
旅の疲れも癒えるだろうし、なにより建物が素晴らしいですよ、と。
いくつもある温泉のなかで私が選んだのは、ゲッレールト温泉。
ゲッレールトの丘という、この街一帯を見下ろせる小高い丘の下にあり、アールデコの美しい建物のなかに、いくつかのプールとサウナがある。
エンタシスの円柱に囲まれた、美しいタイル貼りのプール。
温水と聞いていたけれど、おおきいほうのプールの水はとても冷たかった。
少なくとも少しだけ浸したつま先をひっこめてしまうほどには。
それでも何人かの西洋人たちは元気にすいすいと泳いでいた。
太ったおばちゃんも、小さなおじいさんも。
いったいあのひとたちの感度はどうなっているのだろう。
そういう、感性なんかよりも余程はっきりとした身体能力の差を実感することも、旅の妙のひとつだ。
とにもかくにもこんな歴史ある壮麗なプールで泳ぐ機会はそうそうないので、がんばって水中に身を沈め、何度か往復をした。
天井から入る日差しが水面に反射して、それはそれは美しいプールだった。
ゲッレールト温泉