初めて海外旅行をしたのは大学4年の春休みのことだ。
いわゆる〝卒業旅行〟というもので、ポルトガルに友人と行った。
友人は壇一雄が住んでいたサンタ・クルスに、そして私はロカ峰を旅の最終目的地とし、旅に出たのだった。
なぜポルトガル?とよく聞かれる。当時も聞かれた。
ヨーロッパに行きたい、というのは私と友人の合致した意見で、
パリやロンドンなら卒業してから行く機会はきっとあるだろうけれど、ポルトガルに行きたいという友だちとこの先めぐり合えるかはわからない。
だから、ポルトガル。
そうして私は未だにパリやロンドンには行っていないし、長い旅は好んでひとりでするようになった。友だちも同じだ。
そういえば私が学生の頃はバックパッカーはそこまで多くなかった。
社会人になって数年後、就職活動に効くからバックパッカーになるという現象が起きていてびっくりした。変な世の中になったものだ。
前置きが長くなってしまった。
街のにおいのことを書こう。
はじめて日本以外の国の空港に降り立ったとき・・・それは前述のようにポルトガルのリスボン空港なのだが・・・私は文字どおり本当に息が詰まった。
これまで嗅いだことがないような異臭が鼻をついたのだ。
なんのにおいなのかわからない。
埃と肉と暑さが入り混じったようななんとも不思議なにおいだった。
まずいところに来てしまったと空港のなかでは本気で思っていたのだけれど、街に出て暫くするとこの国のにおいにも慣れてなにも感じなくなった。
それから何度となく旅に出て、いろいろな国に行ったけれど、どこの国にも特有のにおいがある。それが強いこともあれば弱いところもある。好きなこともあれば苦手なこともある。
さてプラハからウィーンの駅に降り立ってびっくりしたのは。
この街にただよう甘いにおいのこと。
駅のなかも街頭も、この街はそこかしこが甘いケーキのにおいでいっぱいなのだった。
街にあふれるカフェ・コンディトライのせいだろうか。
それとも自分の家でもたくさんのお菓子を焼いたりするのだろうか。
まるでお菓子の国みたい。
それがウィーンの最初の印象だ。