誰にでも憧れている(あるいは憧れていた)街のひとつやふたつあるだろう。
パリ。ニューヨーク。カイロ。あるいは東京。


私にとってウィーンがそれだった。
子どもの頃からの憧れの街。音楽の都、ウィーン。


ウィーンは東京みたいな街だ。
発達した交通網。急ぎ足のひとびと。世界からくる観光客。
地面に座る少年や少女。電車で喧嘩する若者。
それらのことに私は少なからず幻滅をするかと思ったのだけれど。そうでもなかった。


これがウィーンか、そうか、なるほど。


そんなふうにわりとあっさりと憧れの都の現実を認めることができた。


ウィーンでもいくつかの宮殿や美術館や王宮や教会に行った。
蚤の市にもナッシュマルクト(食料品市場)にも足を伸ばした。
一生に一度は行きたいと思っていたオペラ座でオペラも見たし、コンツェルトハウスでオケも聴いた。
トラムで街を一周し、ベートーヴェンガングを歩き、ウィナーシュニッツェルを食べた。
これでもかというくらいカフェでコーヒーを飲んだ。


憧れていた街に自分で行けるような、そんなおとなでよかったと思った。
これからもそんなおとなでありたいと思った。

そんなことを思いながら私は憧れの街を歩いた。


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