友だちと食事をした。
四谷三丁目にあるパサパ。
小料理屋や焼肉屋、ちいさなビストロが軒を連ねる杉大門通りの、ひときわ古びた一軒家の2階。
そこがパサパ。


色あせた赤いじゅうたんのせまくて急な階段をあがる。
階段の両側にも、観音開きのドアを開けて入る店内にも
映画のポスターやフライヤーがべたべたと貼ってある。
テーブルは全部で10くらいだろうか。

私たちが案内されたのはお店のいちばんはじの席だったので。
お店中の様子がよく見えた。


なんだか不思議な店だった。
はじめてきたのだけれど、はじめてではないような気がした。
懐かしいのとはちょっと違う。異空間に不意に入り込んだような気分。


薄暗い店内。少し傾いた天井。
使い込まれたテーブルや椅子。
使い古した、でも清潔なチェックのテーブルクロス。
ぞんざいだけれど感じの悪くない店員。何人かの常連客。
めちゃくちゃおいしいというわけではないけれど、安くて感じがいい料理。
とりたててサービスもないし、でも足りないものもない。


外国の食堂、という言葉がぴったりとくる。
海外に旅行にいったときに、ふらりと入った街の食堂。
ガイドブックには決して載っていない店。
アジアでもヨーロッパでもどこでもに共通するような、
現地の言葉しか書いていないメニューリストを見て、高いのかなあと少しどきどきして、誰もかまわない、かといってほうっておかれているわけでもないことに安心して、そうしてするっと落ち着けて、今日一日あったことをたくさん思い出して、明日からの旅にわくわくして、少しだけ東京に帰りたくなる。
そんな旅先の店で味わう気配が、この店には満ちている。


外国の食堂みたい、とぼそっとつぶやいたら。
ここにくるとパリの食堂を思い出すの、と彼女はいった。
数年間パリで暮らしていた彼女を、とてもいい感じの店だからとパサパに最初に連れて行ったのは、日本で暮らすフランス人の友だちなのだそうだ。
レストランではなく食堂。確かにその言葉もぴったりとくる。


前菜、メイン、そしてデザートのプリフィクスで2500円。
格段のおいしさ、ではなく、そんな空気を求めるなら。
また行ってみるのも悪くない。


#パサパ PAS A PAS[四谷三丁目]