恋人の家に行くときはよくタクシーに乗る。
私と恋人の家の距離は直線にしたら一駅とはんぶんくらい。
電車だと乗り継ぎが必要。
歩いても30分強だからのんびりと歩くことも多い。
でも早く会いたいからタクシーにも乗る。


最近見つけたショートカットのコース(仙台坂のトンネルのほうに行ってください)を運転手さんに伝えたら。

そういえば仙台坂のトンネル、ときどき出るんですってねえ。ユウレイが。
「トンネルね、わかりました」のあとに運転手さんはそういった。


ユウレイ?

私はユウレイが大嫌い。
怖い映画のCMも見れなくて、いつも恋人に笑われる。


なのに敢えて〝出る〟トンネルにチャレンジするのもなあと思いつつも、朝だし、トンネルを通ると通らないとでは格段に距離が違うのでやっぱりトンネルを通ってもらうことにする。


ちなみに運転手さんは見たことあるんですか?と聞いたら。
いや、私はないんだけどね。仲間うちでね。と運転手さん。


え、じゃあ、これまで乗っけたことあります?とおそるおそる尋ねる。
あの子どもの頃に聞いた、乗せたお客さんが消えちゃうという怪談は本当にあるのか。怖いと思いながらも少し気になったのだ。


運転手さんは期待に反して(あるいは期待通りに)、
私はないんだけどね。でも仲間はね。と答えた。
でもあれはいいもんじゃないね。と。


それはそうだろう。
誰だって好きこのんで乗せたくないに決まっている。と思ったら。


いやね、怖いとかそんなことよりもさ、せっかくお客さんつかまえたと思ったら消えちゃうんだよ。無銭乗車だのなんだの消えちゃっちゃ文句もいえないしね。

お金さえ払ってくれたら別にユウレイでもいいのよ。
あはは、と運転手さんは笑って付け加えた。


なるほど確かにそのとおり。これが現実。


運転手さんと笑っていたら、件のトンネルはいつの間にか通り越していた。