不意の電話はいつも。
かなしい知らせを運んでくる。


あのときもそうだった。
大切なひとの。永遠の不在をつげる電話。


昨日の夕方。後輩から電話がきたとき。
私は会議中で。だから電話に出られずに。
携帯のメッセージが作動するのを見ていた。


本当のことをいうと。
その電話がかかってきた瞬間に。
誰がとかなにをとか。具体的なことではなくて。
ただただなにかとてもいやな気配があって。
電話に出たくなかったのだ。


その気配を否定したくて。
ナオさんの携帯ですか。折り返しをください。
と。残されたメッセージに。
わざと明るい声で電話をする。


それなのに。ひさびさに話す後輩は。
沈鬱な声で。意味のわからないことをいう。
意味のわからないこと。わかりたくないこと。


ひとの突然の不在はかなしい。
いろんなことを持ち去って。
いろんなことを引っ張り出してくる。


無骨だとか。鉄人だとか。いわれていた先輩は。
私にとってはすごくやさしくて面倒見がよくてまじめで一生懸命で丁寧な仕事をするひとで。
私は教えてもらったり助けてもらった記憶しかない。

奥さんとか。親御さんとか。友だちとか。同僚とか。
先輩にもっとずっと近かったひとのことを考えると。
ほんとうにほんとうにきりがない。


いま私にできるのは。
冥福を祈ることだけで。
でもそんな言葉ではまったく足りないのだ。ほんとうは。


でもだからこそ。私はふつうに過ごそうと思う。
ごはんを食べて。仕事をして。大切なひとたちと会って。恋人と会って。
そういうことをときどき日記に書いて。
いつもみたいに毎日を過ごそうと思う。大切に過ごそうと思う。