そうえいば来週、たんじょうびやんな。
なんかほしいもんある?


ふと思いついたように。
あさってのほうを見ながら恋人がいう。
少し前。ひとあし早く春の風が吹いた日の。先週末の。駅のホームで。


たんじょうび。


私がほしいものは。本当はひとつしかなくて。
でもそれは。いまはほしいといえないものだから。


あなたがあげたいと思うものがほしいよと。
なにかあげたいものはある?と。
私はこたえる。


そうやなあ。春やから
これあげたいと思っててんけど。

それは確かに私が持っていなくて。持っていたほうがいいようななにかで。

そんなふうにいうあなたに。ふたりのあいだに。
ちゃんと時間が流れていることを。私は感じる。
クリスマス。ヴァレンタイン・デー。誕生日。
そういうときにはいつも。
なにをあげたらいいかわからへんから。といっていた恋人の。
その変化に。


そうや。たんじょうびに花見でもいかん?
まだ咲いてへんかな。


桜が一面に咲いている電車の中吊りを見ながらいう恋人に。


んー。まだ咲いてないと思うけど。


そうこたえながら。
私は恋人のその言葉を。とても嬉しいと思う。


あなたは私のことをあまり考えていないと思っていたから。


たんじょうび憶えてないと思っとったん?
ほんまは研修はいってたんやけど、ずらしてんで。


そう少し得意げにいう恋人を。
嬉しいと思う。


もうすぐたんじょうび。