先日乗ったタクシーの運転手さんと。
ひょんなことからマンションを買う話、をする。
私は不動産を買うという行為にあまり良い印象を抱いていない。
もちろん既に持っているひとについてはなにも思わないのだけれど。
自分自身ではいまのところ買おうとは思わないし、親しいひとが買おうとしたら、賛成するよりも辞めたら?という方向から考えてしまう。
誰かが意志を持ってしようとしていることには基本的に賛成または受容する私としては、極めて珍しいことだ。
それは。私が高校生のとき。
いまは亡き祖父が家業の傍らはじめた不動産部門に大失敗し、あわや一家離散、という経験をしたせいが大きい。
そのときに起こったこと、体験したこと。
それらは私に甚大ならざる影響を与えた。いいことも悪いことも含めて。
不動産にいい印象を抱けないのは、まさにその影響のひとつで。
したがって、運転手さんとそんな話になったときも、
私はマンションは買わないですね、ときっぱりと結論づけた。
その理由も付け加えながら。
すると運転手さんは。
いやー。未練がましいんですけどね。
私はまだこんなもの持ち歩いてるんですよね。
そういって。
免許証の裏側にしまってある、宅建の免許証を見せてくれた。
建築士の資格も持っているというその運転手さんは。
経営していた不動産会社をいわゆるバブル景気破綻時に倒産させてしまったといい。
でもいつかまた不動産をやりたいという思いを持ち付けている。のだそうだ。
その感情に。
未練、と名づけながら。
未練のこと。
私の祖父は数年前に亡くなった。
死の床で祖父は。
不動産をやりはじめたばかりの、いろいろなことが上向きだったころのことを。
うわごとで繰り返していた。
おじいちゃん、忘れられないんだね。
あのころがおじいちゃんにとっていちばん良かった時期なんだね、と。
母がぽつりと言っていて。
それもまた未練なのだろうか。
ただ。自分を責めたり苦しんだりしている、
そんなうわごとでなくて良かったと思ったことを憶えている。
夜更けのタクシーのなかで。
少しだけそんな昔のことを思い出す。