週末に大きな地震があった。


そのとき私は自分の家にいて。
買い物から帰ってきてシャワーを浴びたばかりだった。
いつもとは明らかに違う衝撃が貫き、私の住むアパートはぐらぐら揺れた。
少し後にも大きな余震があって。
これはついにきたかもしれない。そんな嫌な予感すらするくらい。
大きな地震だった。
そして本当に本当に恐かった。


私と恋人は。
大きな地震があったら。恋人の家のすぐそばにある公園のバス亭前に集合することにしている。
お互いの家を行ったりきたりしても埒が明かないし、電話が通じないことがあるかも知れないから、と。随分前にそう決めた。そして時々確認しあう。


地震が起きたら、あそこに集合ね。
うん、ええよ。
そんなふうに。


土曜日の地震のとき。
恋人は東京ドームでフットサルをしていたのでほとんど衝撃を感じなかったらしい。
だから恋人から連絡がきたのは地震がおさまって暫くしてからだ。


大丈夫やったか。地震。


その一言で。
私は泣きたい気持ちになる。胸がいっぱいになる。


大丈夫だった。でも恐かった。
そうこたえた私に。


なんともなくて良かったなあと恋人はいう。


恐かったのよ。あなたがいなくて。
そう言いたかったけれど、言わなかった。
ほんとうは言えなかったんだけれど。


フットサルの大会で。400チームのうち準決勝まで進み。
しかもシュートをたくさん決めたという恋人は。
とても嬉しそうに、最近はチームも絶好調や、という。
先週怪我をした足もすっかりよくなっている。よかった。ほんとうに。


翌日はぼてぢゅうでお好み焼きを食べながら、夏の旅行の話をする。
滝つぼで泳ぎ、牛車に乗る。カヌーや釣りやダイビングをする。そんな来月の旅行のこと。


お好み焼きを食べ過ぎてお腹がいっぱいになり。
苦しい苦しいといいながら。
ペットショップに行き、古い温泉旅館のようなにおいのする喫茶店でコーヒーを飲む。
恋人は少し長くなっていた髪を切りに行き、その間、私はミスタードーナツで氷コーヒーを飲む。
夏物のスーツを買うのに付き合い、ふたりでマッサージに行く。


ふたりでいることはとても自然だ。
いつもなら。こんなふうに。
この時間が続いたらいいのにと願う。穏やかな時間。


地震が起きた土曜日の夜に。
恋人といつもの約束を交わす。


地震が起きたら、あそこに集合ね。
うん、ええよ。


地震が起きるのはもちろん嫌だけれど。
その約束は私のこころをあたたかくする。