その店は、大井町の駅からほど近い坂道の途中にある。


おでんと書かれた大きな赤い提灯と、にじり戸を思わせる低い入り口。
看板がないその店の、目印は2つ。


にじり戸をくぐり、履物を脱いだら。
小さな土間を上がる。
ほんのりとしたお香のかおり。
その先に見える、10席ばかりのカウンター、幾つかの小さな卓袱台。


趣向をこらしたしつらえだけれど、堅苦しくない。
磨きあげられた床が、素足に心地いい。
御婆灯は、そんな店。


おでんの店と聞いていたけれど。
折角なのでおすすめというお惣菜をいただく。


注文を受けてから茹でるという枝豆は、はりはりと、岩塩が品よく絡み合い、
なすの揚げだしは風合いがきちんと活きている。
ほかにもおくらの胡麻和えなど、季節の野菜を味わえる。


そしていよいよおでんである。
関西風でも関東風でもないという、この店独特のだし。
どれもおいしかったけれど、奥さんおすすめの厚揚げがやはりいい。
だしの味が、きちんと染みている。でも重くない。
時折、揚げの味がどっしりしすぎて、肝心のだしを殺してしまう店があるけれど。
ここの厚揚げはだしの味も揚げの味も両方ともじっくり味わえる。
ほんのりと品がいい、厚揚げとだしの味。


夏におでんというのもなんだけれど
でもこのお店なら。それも悪くない。
何よりも。
こんなにおいしいおでんなら、冬まで待つのがもったいない。
そんな気持ちにさせる店。


#御婆灯[大井町]
このお店で働いている女性、華原朋美さんに似ていてとてもかわいらしかったです。