先週の半ばのこと。
徹夜仕事が終わり、シャワーだけ浴びに家に帰ったら、
大家さんから手紙が届いていた。
いま住んでいる家の大家さんは、同郷の方ということもあり、なにかと気にかけてくださる。
たとえばエアコンを無料でつけてくれたし、新品のキッチンを入れてくれた。
心配なことは階上に住む息子さん夫婦にいつでも連絡をするようにと段取りをつけてくださったり、
なにかあるとすぐに自転車でやってきて、業者さんを呼んでくれ、ときには自ら修繕もしてくれる。
私の父と同じくらいの世代だろうか、日に焼けた、声の大きな、笑顔が気持ちのいいひと。
大家さんからの手紙。
元気そうな声を聞いて安心しました。
どんなに仕事が忙しくても、体も頭も疲れていても、せめて私が育てている花を見ながら出入りしてくださいね。
アパートの入り口に小さな白い花を飾ってあります。憶えていますか?
ナオさんが以前、ドアの外に飾ってあったのと同じ、ブライダル・ブーケです。
ナオさんを支えてくれる人がいたら、〝ジューン・ブライド〟も考えて下さい。
知らせてくれたら、私が生花の〝ブライダル・ブーケ〟で飾ってあげますよ。
そう、確かに。
以前、玄関の脇にブライダルブーケを飾っていたことがあった。
小さくて可憐な白い花をたくさんつける植物。
それにしたって。
仕事でいっぱいいっぱいで、さらにいろいろあってちょっと悩んだりしているときに。
父親のような年齢のひとに、こんなふうに親身な言葉をかけられると。
本当にほろっときてしまう。
ほろっときてしまうではないか。
張り詰めていた糸が。ぷちっと切れてしまうではないか。
手紙を読みながら。
大家さんのことと、そして田舎に住む父親のことがどんどんと浮かんできた。
以前に一度だけ。
父に言われたことがあるのだ。大家さんの手紙のようなことを。
世の中のお父さんはだいたいみんな一緒だ。
娘の、子供たちの幸せを、黙って願っている。見守っている。待っている。
私の幸せを願っている父親。
ときどき電話をすると、もの言いたげに、だけど元気か、とだけ問う父親。
ごめんね。
お父さんの言いたいことはわかっている。
して欲しいことももうわかっている。
わかっているんだけど。果たせなくてごめん。
外はすっかりと明るいのに、私は眠れずに。
ひとりきりのリビングで。何度も何度も手紙を読む。
今度の週末は父の日。
今年はなにを贈ろうか。
最高のプレゼントは今年も先延ばしになってしまうけれど。