旅に出てきた。
鵠沼海岸への、ささやかな旅。
鵠沼海岸。
2年半ほど前の数年間を過ごした町。
小さな駅に降り立ち、商店街を歩く。
花屋さんや自転車屋さんや八百屋さんがまだあって、
雑貨屋さんやインテリアショップや洋服屋さんができていた。
片手にサーフボードを持ち、ウェットスーツで海に向かうひとがいる。
ビーチバレーの帰りだろうか、日焼けした顔で駅に向かう集団がいる。
変わったところと変わっていないところ。
そのどちらをも含めて。私はこの町を、こういう町を。
とても好きだと思った。改めて、強烈に。
空が近くて大きくて。
行き交うひとが急ぎ足ではなくて。
海の香りがする。
毎日の生活のためにある町。
ささやかで地道な暮らし。
それを愛するひとびと。そんな愛すべきひとたち。
あの頃よく行っていた i/o cafe
。
週末の定位置だった窓際の席に座る。
この場所からは、大きな空がとてもよく見える。鵠沼の青い空。
ベーコンエッグチーズサンドを食べ、コーヒーを飲む。
分厚いトーストにたっぷりのベーコン。懐かしくもおいしい味。
しばらく本を読んでから、海を見に行く。
相変わらずツメほどしか波がないのに、サーファーがひしめく鵠沼の海。
帰りがけに、cafe香房
に立ち寄る。
モカ・マタリの芳ばしいかおり。
東京への帰り道。
鵠沼海岸から片瀬江ノ島に出て、江ノ電に乗り換える。
腰越を過ぎた頃に、突然、まさに幕を上げたようにぱっと開ける海。
そして鎌高前の、あの目の前いっぱいに海が広がる時間。
いつ見ても、何度見ても、本当にドキドキする。
海はいつでも美しく、そして素晴らしい。
荒れている日も、凪いでいる日も。
そこに海があるだけで、それでもう十分になってしまう。少なくとも私は。
今回の旅は。
いろいろなことを見直すために、そして少しの決意のために、行ってきた。
自分にとって大切なこと。大切なひと。
本当に向き合いたいこと。向き合いたいひと。
そんなことのために。そんなことを見極めるために。あるいはそんなひとを。
多分いま私は、ひとつの転機にあるのだろう。
転機というのは、実際にその渦中にあるときは分からないもので、ああこれが転機なのだと思えるのは、浮上してきたときだと、大学のときの授業で習った。
そういう意味では、もう私の転機は終わりつつあるのかもしれない。既に新しい何かを手に入れているのかも知れない。いまはまだ迷っている、気がしている、けれども。
いずれにせよ。
見えたことと見えないこと、見えたけれど目をつむりたいこと。
そのどれもまだあるけれど。
でも少なくとも今日、私は。
この海と空と町にとても癒されたし、たくさんの何かをもらった。まだ確かなかたちにはなっていなくても。
そのことに感謝したい。心から。
そしていつか、きちんと見えたらいいなと思う。
目をつむらなくても良くなればいいなと思う。
遠くない将来に、そんな日がきっとくる。
そんな予感がする。