そのレストランは、新橋駅そばの高速高架下、
時代はずれなショッピングモールの一画にある。
はと屋という名前の、カウンターだけの小さな洋食屋さん。
汐留にオフィスが移転する前には、すぐそばに会社があったので、文字通り日参していたお店。
コの字型のカウンターは10人も座ればいっぱいになる。
壁一面には画用紙にマジックでメニューがべたべたと貼ってある。
昼はワイドショーを、夜はプロ野球を映すテレビがどんと置いてある。
お客さんの9割は男性で、テレビや新聞を見ながら、もくもくと食事をし、あっという間に立ち去っていく。
そんなお店。
ここのハンバーグがとてもいい。
聞けば肉は松坂牛の挽肉を用い、油やパン粉にもずいぶんと気を遣っているという。
カウンターに常時置いてある数種類のドレッシング…それも100円ショップで売っていそうなボトルに入ったドレッシングも、全部手作り。
正直言って、とてもそんなふうには見えない。
そんなふうに、素材や料理にこだわっているようには。
でも手早く供される料理をひとくち口にすると。
それこそあっという間にわかってしまうのだ。
この店の力量が。さまざまなこだわりが。
そっけないくらいに飾らない、本当の力量が。
こくのある肉の、口中に広がる滋味。デミグラスソースの深い味わい。
ふんわりと、でもしっかりとした焼き加減。
ぎりぎりまで旨味を引き出す手腕がそこにある。
ハンバーグの横に鎮座するナポリタンも、洋食の付け合わせとしてちょうどいい。
少し太めのパスタにデミグラスソースがほどよく絡む。
料理を出すこと。
それ以外にはなにも気を遣っていないように見えるはと屋。
いろいろやってますよ、うち。
そんなことは微塵も感じさせない本質的な力量が、そこにはあるのだ。