大学の近くに、とても好きなカフェがあった。
古びたビルの外階段を上がった2階にあるそのカフェは、
学生や教授や近所の人たちが、静かにゆったりと過ごす場所。
飴色に変わった漆喰の壁、深い色合いのテーブル、赤い絨毯が張られた椅子。
お店の真ん中にあるショーケースには、マスター手製のケーキが並ぶ。
訪れる者にふんわりとした懐かしさを感じさせる場所。
cafe GOTOでお茶をすること。
貧乏学生だった私にとって、それは少しばかり勇気がいることだった。
飲み物とケーキで1000円ちょっと。
一時は今や天然記念物的な4畳半風呂ナシのアパートに住み、
生活費を稼ぐためにアルバイトばかりしていた私には、
cafe GOTOで過ごす時間は、とびきり贅沢な特別なもの。
だからこそとても大切にしていた。そこで過ごす時間、空間、そのすべてを。
窓際の席か、あるいは中央の大きなテーブルで、
ゆっくり本を読みながら、ベイクドチーズケーキとお茶をいただく。
このお店のベイクドチーズケーキは、チーズの味がしっかりとしていて、しっとり重量感のある本当においしいケーキ。
大学界隈に行くときは、今でもたいていcafe GOTOに寄っている。
躊躇なくオーダーできるようになった、そしていま食べても本当においしいと感じるベイクドチーズケーキとコーヒー。
でも外階段を登るときには、いつも少しだけ背筋が伸びる。あの頃の特別な気持ちを思い出して。