大井町の駅から歩いてすぐの一角に、
東小路や平和小路と呼ばれる細い通りが続く場所がある。
向こうから来る人とすれ違うのに、お互いに道を譲り合わないといけないその小路には、戦後の闇市から発展したという軒の低い雑然とした小さな店が連なっている。
一坪あるかないかの、小さなお店。
渋谷なら百軒店やのんべい横丁、新宿なら思い出横丁のような。

小路に面した店の入り口や厨房の窓はたいてい開けっ放しになっていて
仕込みをする主人や、狭いカウンターで昼間から飲んでいるお客さんの様子をひょいひょいと覗きながら歩くのはとても楽しい。

この界隈には、古くからある安くておいしいお店がとても多い。
そのひとつが、東小路にある焼肉屋の大門。

ここの中落ちカルビがとてもいい。
一皿400円だったか450円。
確かそれくらいの金額で、つまり東京の一般的な焼肉屋さんの半額以下で、たっぷり熱々の肉汁が染み出てくる肉厚のカルビを味わえるのだ。

もちろん無煙ロースターなんてものはない。
従って、店を出る頃には相当に焼肉くさい人になっている。
でもここは東小路。
そんなことは全然気にしなくてもいい。

キムチをつまみに牛タンと中落ちカルビをたっぷり味わったら、最後はご飯ものでしめる。たいていはテグタン。抜群においしい。でもきっと他のものもおいしいに違いない。それでもまたテグタンを頼んでしまう。そしてスープもいい。ごくごくと飲み干したくなる。そんな味。

この大門、大井町・大森・荏原界隈に異なる名前の系列店が7~8店舗あるそうで、そうとは知らずに違うお店にも行っていた。
そして大門に辿りついてやっと分かった。この大門が、断然いい。
たれが違う。付け合せの白髪ネギが違う。肉の柔らかさが違う。

そりゃそうさ、わたしは40年、この店やってんだから。

そう店主のおやじさんは言う。
少しばかり嬉しそうな顔をして。

そんなおやじさんに出会えるのも、
この小路の魅力のひとつ。

#大門[大井町]