天気のいい日が続いている。
こんな暖かい日には、空調が効いた快適なオフィスビルなんかではなく、
街を散歩したり公園で昼寝でもしていたい。

 

この前の日曜日も、とても天気が良かった。
前日の寒さと打って変わって。

 

恋人の家の近くに、運河のような場所がある。
釣り船が数隻係留されている程度の、小さなひっそりとした場所。
堤防にはのんびりと釣り糸を垂れる人がたいてい数人だけいる。

 

この運河のまわりに桜があったことを思い出して、
日曜日に見に行ってみた。
もしかしたら、この暖かい陽気につられて
桜が咲きはじめているのではないかと期待して。

 

商店街を抜けて堤防に近づく。
すると。とても懐かしい香りが鼻腔に広がってきた。
青っぽい、少しむせ返るような。
でも草原のにおいとはちょっと違う。もっと象徴的なにおい。
昔、確かに嗅いだことがある。それも何度も。
少しずつ、記憶を辿り寄せていき。
そして気が付いたのだ。

 

これは春のにおい。
春の到来を告げる、菜の花のにおい。
小学校の校庭や近所の畑の脇にあった菜の花。
懐かしい香りの記憶。

 

運河の堤防を上がると、そこは一面の菜の花畑。
黄色い帯が運河をぐるりと囲んでいる。
東京の片隅に広がる小さな春の空間に
その穏やかな風景に
胸がいっぱいになった日。

nanohana