その喫茶店は、鵠沼海岸の商店街にある。
カフェではなく喫茶店という言葉が本当によく似合うお店。
鵠沼海岸に住んでいた頃、i/o cafe
と同じくらいよく行っていた、cafe香房。
私はいつもカウンターに座る。
そしてモカ・マタリを頼む。芳しい香りのコーヒー。
カウンターは、町の小さな社交場だ。
近所の人たちが、歩いてまたは自転車でやってきて、
そしていつもの何かを頼む。
口ひげを生やした、素敵なマスターに。
町に住むおじさまやおばさまたちから、私はここでいろいろな話を聞いた。
例えば昔の戦争のこと。湘南のこと。サーフィン。よく聞いたFEN。仕事。子供や孫たち。そんな話。
彼ら彼女らとの語らいは、とても楽しい時間だった。
ひとしきり話をし、コーヒーを飲み終わると、歩いて5分の海へ行く。
波が良ければサーフィンをし、そうでないときは散歩かお昼寝。
目の前に広がる海。それが鵠沼海岸の休日の過ごし方。
香房のカウンターの奥の棚には、ジノリやウエッジウッドやコペンハーゲンのコーヒーカップが無造作に並べらている。
色とりどりのきれいなカップ&ソーサたち。
いつものコーヒーを頼むと、マスターは自家焙煎した豆で丁寧に淹れる。
そしてその棚から、一組のカップを取り出す。
いつか聞いたことがある。
そのカップ、お客さんごとに選んでます?それとも適当?
マスターは笑いながら教えてくれた。
お客さんの雰囲気に合いそうなものを出すようにしています。
たとえば着ている服の色なんかを参考に。
お年寄りの方には、明るい色のカップを出すようにしてるかな。やっぱり明るい気持ちになって欲しいから。
あとは、その人と話したときの印象で。
まあ適当なこともありますけどね。
いつの頃からか、私にはいつも同じカップ&ソーサが出されるようになった。
少し紅みがかったコーヒーカップ。
あれから3年。
いま行ったら、どんなカップが出てくるだろう。
変わらぬ香ばしいコーヒーとともに。