[前回]

 


「もう訳わかんねえよな、世の中」眉間に皺を寄せても、潤の顔は様になっている。「そういえば、幸雄の親はどっちも死んだんだっけ?」
「うん」
「ひでえよな。子ども残していくなんて」
「うん。まあ、そうだね」
「普通の親なら子どもを守るだろ。自分たちだけさっさと死ぬなんて、おかしいって」
「そうかもね」実際、何が正解か、僕には分からない。死を選択した人間も少なくないのは事実だ。
「潤は相変わらず?」確か、マウンテンストリートとは違う、高級住宅地と言われている場所に、家があったはずだ。父親が医師をしていると聞いたことがある。
「ああ。うちは両親も妹もぴんぴんしてるよ」

 レジ係が、潤の買い物カゴに入った商品の会計を始めている。ピッという機械音が心地良い。

 いまだに売買が成立していることに、改めて驚く。三年後に地球が終わるにも関わらず、紙幣や硬貨に価値があると、みんな信じている。小惑星が地球に衝突しないと考えているのかもしれない。確かに、地球が終わらないのであれば金銭は必要だ。だが、そんなのは希望的観測にすぎない。「もしも」のために、この街の人間は今までのルールに従って行動しているだけだ。生き残っているのは、ルールを無視して行動することを恐れた人間たちだ。残念だが、あと三年で世界は終わり、「もしも」のために貯めた財産はチリになる。