夕闇から漆黒に変化したころ、家の外で
「〇〇子!」「〇〇子!!」と、父が私を呼ぶ声が聞こえる。
「また、父に怒られるようなことをしでかしたか」と、びくびくしながら外に出てみると、
竹かごの中に、夜露に濡れた草の間からほの明るい光が点滅している。
「〇〇子 蛍だよ!!」と、父の弾んだ声。
虫かごの中から、蛍をそっと出して手のひらに置く父。
チョウチョに比べてとっても地味だけど、お尻が点滅して、蛍の周りが明るくなる。
「今夜だけ、お家の中で暮らすけど、明日になったら草むらに返してあげるんだ」と父。暗い土間に虫かごを吊るしてくれる。
その晩、夜中に起きると虫かごの中で 時々光っている。
朝作りをする父は、夜明けとともに起きて、蛍を草むらに返したようで、私が起きたときには、すでに虫かごは空っぽになっていた。
そして、また漆黒の闇の中で、私の名前を呼ぶ父の声。
「ついておいで」と、父の後についていくと、
河原の近くの草むらのあちらこちらに、つい数日前に見た蛍の光。
母や兄、姉もあとから来て、しばし蛍をじっと見つめていた。