幼い子供が、一番身近にいる自分を産み育ててくれている両親から命を奪われる。
お腹を痛め、10カ月も自分の体の中で育んだ子を痛めつける、大人にどんな事情があるのだろうか。命があるものを傷つけるのは怖いのに、相当追い込まれての結果だろうが。
報道される虐待例はゴクゴク氷山の一角で、圧倒的に体力も知力も弱い子供が
「暴力」にさらされている。
全国ではどんな実態があるのか、厚生労働省社会保障審議会児童部会で出されている資料や「国民の福祉と介護の動向」を見てみた。
子どもの虐待の加害者は、実母と実父が9割弱。虐待を受ける子供の年齢は3歳未満が約4割。未就学児童までを含めると7割。家庭の中で両親による虐待が起こっているということになる。
「少子化対策」で児童手当や医療費の無料化が盛んに宣伝されているが、経済的保証を進め、育児休暇を父親が取得すれば解決できる問題でもなさそうだ。
様々な貸付制度があるが、無利子でも償還期間が10年未満のものが多い。その利用者がどのくらいいるのか、詳しい資料を見つけられなかった。奨学金と同じで、たとえ無利子でも子育て中に返済するのは難しいのではないか。
子どもを授かった時、その子供を無事育てようとする、まさにその子育てのごく初期に悩み苦しむ親たちがいて、幼い命を奪うことが起こっている。子供が家庭に依存しなければならない時期の支援策を充実させなければ、子供の命を守れない。地域の中で保育所、幼稚園、児童館、小学校意外に子育て支援機関がどこにどれほどあるのかだろう。
子どもの虐待事件が起こると必ず児童相談所の対応について言及される。その児童相談所の数は、2023年4月1日現在、全国で232か所(支所が含まれない)。児童相談所の職員一人当たりの担当者数が平均100件という。職員のその5割前後が経験3年未満だという。
東京都だけで認可保育所の数が3600か所を超える。保育所に通う子供は36万人以上。児童相談所は全国で232か所、圧倒的に少ないと思えるのだが。
家庭の問題は複雑で、悩みや問題があればあるほど、それを言葉にして伝えられない。他者に話をするのは憚れる。虐待が起こる前に様々なことが家庭で起こっていることは想像でき、未然に防ぐ手立てが確立していないのか。児童相談所がかかわりを持とうとしても、面接が断られたり両親から意識的に問題が隠されたりすることもあるだろう。
子どもが殺されたり、小学生が自殺したり。子供の命が守られない社会になっている。
知人は「子供の生きようとする本能が欠落している」というが、そうではない。子供に本来備わっている伸びようとする力を削いでしまう社会なのだ。社会と一括りにすると急に問題がぼやけてしまうが、大人の生きづらさと同じように子供が生きづらくなっている。
育児に取り組んでいる親や児童相談所の問題だけではないはず。
高齢者介護の相談支援施設と比べると、児童相談所数や児童福祉士などの職員数はあまりにも少ない。
私が看護学校に通う頃(1970年代)も、小児科や産科の医師や看護師、保健所で母子保健を担う保健師たちが、「社会で子どもを育てる」と強調していた。今は昔以上に、子供が健やかに社会で育っていくことができなくなっているんだと思う。
幼い子供の連れ去り事件に巻き込まれたりするために、親の子供を守ろうとする意識が強くなり、ご近所で挨拶をすることさえ敬遠する両親もいる。共働きであったり、単親家族の場合、親が日中に相談機関を訪れる時間も少なかろう。
笑顔で過ごせる時間が少しでも増えてほしいと、門外漢の私は思うのだが。