「医者に殺されるな」などと言う過激な発言を、堂々とされる医師たちがいる。

最近では、毎年数十冊の医療関連本を出版し、次々とベストセラーになっているWH氏。
氏の著作は、単行本にとどまらず週刊誌や月刊誌でのインタビュー記事など多数。本屋さんに行くと氏の著作がざっと数えても10冊ほど横積みされている。

昨年の8月に心筋梗塞で73歳で亡くなられた近藤誠氏の論調に似ており、日本人の常識となった「早期発見、早期治療」にも反論を展開している。著作によると氏の職業は、精神科医、大学病院の講師、臨床心理療法士でもあるという。共著者も非常に有名な某国立大学の元学長や元教授であったりするので、その権威の力は相当なものだ。一般読者向きの本と違って、複雑な身体の働きや仕組みについて冗長な説明はせず、一回読むだけで行動化できるような巧みな表現力。岩波新書より分かりやすい表現をされている。


この方は、「健康診断を否定」し、血圧の値や血糖値について一般的な診断基準基準が無意味だと言わんばかりの議論をしている。ご自分の血糖値が600㎎/dlを超えたことがあり「治療を受けずに良く歩くことで200㎎/dl低下したので、糖尿病の治療は受ける必要がない」と断言する。著書に記されている勤務先の医療機関には健康診断の部署があるので、パートの医師して働いているのかもしれないが、お給料の一部は健診業務による収益が含まれているかもしれない。

血圧や血糖値が高くても、体の異常を自覚できないことも多い。何となくだるい、頭が痛い、やる気が出ない、疲れやすいなどで、すぐさま血圧や血糖値が高いことと直結しない症状が続くこともあるし、全く自覚症状がない場合もある。

日野原重明先生が提唱した「生活習慣病」と言う言葉の通り、仕事や食事や運動習慣、睡眠や家庭環境など様々な暮らし方が複雑に関連するので、薬物療法の前に、自分の暮らし方を振り返り、生活習慣を見直すことが大事とされる。人間ドックや健康診断を日本全国に広げたのも日野原先生のお力によることも多い。

健康診断で、血圧の値が高いことが分かっても、すぐさま降圧剤をはじめとする薬物療法を開始することはしない。自宅での血圧や体重をはかり、食事を気をつけるなど生活習慣を見直し、数か月様子を見るように説明される。体重が数キロ減って、減塩に気を付け、過重な負担になっている仕事などのストレスがが改善されると、降圧剤を飲まなくても大丈夫になることもある。私自身も定年退職後に降圧剤を中止することができた。

すでに尿たんぱくが陽性だったり、血液検査で腎機能障害や、眼底写真の変化などの他の異常の数やその程度により、どのような治療をするか、経過観察の期間をどうするかなど、きめ細かく医師と相談していくことが大事だと思う。

WH医師は、ご本人が経営するクリニックで、予約制の全額自費の診療を行なっており、WH医師と相談後にいろいろな検査も行っているようだ。先生が訴えたいことは、自治体や健康保険組合、職場などでの一律的な健康診断は無意味だと主張したいんだろうか。

報道によると、近藤誠氏は、タクシーでの移動中に胸部症状が起こったため救急搬送され、搬送先の医療機関で亡くなられたという。入院後にどのような検査や治療を受けたかは不明だが、ご本人がおっしゃっていたように「がん」で亡くなられず、日本人男性の健康寿命に近い年齢でもあり、ご本人が願ったような最後だったのかもしれない。

医師に言われたとおりの治療を受けるのではなく、ご自分がどう生きたいか、よく考え医師に相談しながら、治療方法を決めていくことが大事だという、近藤誠氏の考えに私も賛成する。

最後まで自分らしく生きたい、私もそう思うが,所詮人間であり、ままならないことも多い。自分の力が及ばないことについては、周りの力にお任せするしかないというのも、現実的な判断かもしれない。

注:近藤誠氏に著書に反論した医師もいらっしゃるが、健康診断や人間ドックに携わっている医療従事者の中には、私と同じような危惧を抱いている方がいらっしゃるかも。