ゴールデンウィーク中に、重い話題です。避けたい方は、スルーしてくださいませ。


ここ数年、セクハラ、パワハラ、モラハラなど苛めや虐待について世間の眼は厳しくなってきている。不当な言動が明らかになれば、加害者は解雇や異動されることが普通になりつつある。

精神科病院については、この世間一般の良識が適応されない。厚労省、保健所、東京都など行政の担当者は、精神科病院で不当な人勧侵害があっても、よほどのことがない限り法的な措置を講じない。何人かの看護師は逮捕されたが、この病院についてはやっと改善命令だという。精神保健や精神科医療について素人の私には、解せない。

nhk ETV特集で二つの番組がすでに放送されていた(Jcom NHK オンデマンド)。

「ルポ 死亡退院」と「精神科病院×新型コロナ」。

どちらを見ても、慄然とする。

(1)「精神科病院×新型コロナ」

いまどき、6人の患者さんが入院している畳部屋があるなんて。和布団が三人2列で並んでいる。新型コロナ感染が相次いだ時期、患者さんが入居する部屋の外に出て行かないように南京錠をかけたという。さらにこの部屋はナースセンターが遠く、しかもナースコールがない。入院病室にナースコールがない!!絶句。患者さんが、カギがかけられた部屋の中から「水、水!」と叫んでも看護師が来ない。お尻に巨大褥瘡があり、排便介助がされていない患者さん。その畳部屋にはトイレがなく、部屋の中央にポータブルトイレが置かれ、患者さんはそこで排泄をしているのだという。ポータブルトイレを、6人の患者さんで共有しているなんて聞いたことがない。排泄後の手洗いはどうしていたのだろう。

この病院で、新型コロナのクラスターが発生した時、保健所に相談したが、保健所職員は訪問して具体的な指導をするのではなく、文書で指導した。陽性者の隔離はせずに、他の医療機関への転院対応もせずに、そのままそこで過ごすように指導していたという。保健所はこの病院が精神科病院であり、個室がないことも承知している模様。

精神科病院で入院している人は、たとえコロナ陽性になっても、感染予防対策をとられないまま感染しても、専門医療を受けられないのは当たり前???「棄民」とインタビューで答えていた。精神科病院間の協力関係や、都や市区町村間の連携、地元医師会はどのように考えていたのか。

この病院に東京都職員と都立の病院職員が支援に入った。都の担当部局の職員は南京錠があることを確認したものの、その病院の職員には特に指導しないで帰っていったという(入院患者さんの発言)。

都立の精神科病院の院長は、上記のような状況についての報告会の最後に「必要悪。ベストの対応を求めるのではなく、ベターな方法を探るしかない。精神科病院が倒産や閉鎖をしたら、そこに入院している患者さんは行き場所を失う」とおっしゃる。ベターって、グッドの変化形だ。バッドなのにグッドと言いくるめるのかと疑う。この院長は、ご自分の良心に従って勤めている病院組織を運営されているのだと思うが。でも、精神科の医療に携わっている医師たちが、患者の人権侵害について、弁護士や精神医療や福祉の専門家と一緒に公的な発言をどのくらいしているのだろうか。医師会や学会などで本気に取り組んでいるのだろか。国、都、市区町村の担当者に改善を求め、さもなければ廃院や業務停止もやむを得ないという決断をできないこと自体、日本の社会と、現在の日本の精神科医療を担う医師や看護集団の怠慢、もっと言うならば私を含む医療従事者や社会福祉従事者の怠慢だと思う。

民間の精神科病院組織の理事長は、精神科病院は患者の治療と同時に社会を保安するという機能を持っており、精神科病院がなくなって困るのは警察と保健所だと豪語する。日本社会の精神疾患に対する偏見故だが、精神科医療機関のトップが、まるで社会のために自分たちが務めを果たしていると堂々発言する様子に、怒りを覚える。


(2)「ルポ 死亡退院」

 滝山病院が実名で報道されており、院長や看護師長、看護師や准看護師の院内での発言、病室での看護師の虐待の状況を伝えている。

院長が患者さんを「ヤツ」と呼び、看護師長(番組では二人の女性の声)も院長の言動を支持し、福祉事務所や保健所が滝山病院への入院を希望していると誤解している。

患者さんを「ヤツ」と呼ぶ医師がいることを初めて知った、しかも精神科で。看護記録の改ざんを「天ぷら」(隠語)とよび、先輩看護師や師長自らが新人スタッフに堂々と改ざんをすることを指導している。患者さんに対する暴力があるのは日常茶飯事と師長自ら認めている。

関節拘縮している患者に、テープ止めのおむつのままパジャマが履いてなく、掛物もかけず、下肢がむき出しのまま四肢を拘束している。

多系統萎縮症の女性を入院を受け入れているが、神経筋疾患の難病に必要な薬物治療がされていない。酸素吸入と経鼻栄養はされ、頬に管を固定しているが、テープかぶれによるものか頬が赤く乾燥している。リクライニング車いすに乗り、鼻や口から吸引がされている様子。(※ 多系統萎縮症は神経難病の一つで、医療費について公費助成を受けられる)

40代の統合失調症で慢性腎不全の方が3年以上も入院していたが、この方は取材時には地域生活をしている。

6人部屋のベッドとベッドの間は60㎝ほどの狭さで、カーテンがカーテンレールの壁際に固定されている。排泄ケア時にもカーテンはそのままなのだろう。プライバシーを守るとか、寝たきり予防のために日中の活動量を増やすなど、一般病院で普通に行われていることがこの病院ではされていないようだ。

うつ病に腎不全が合併した50代の透析を受けている患者さんが、弁護士に助けを求め相談できたが、その3週間後くらいに急性心不全で亡くなってしまう。弁護士との面会後に、自室に戻ると看護師たちから口々に「何を話したのか」「なぜ弁護士を読んだのか」などと詰問されている。母親に、退院したいと切々と綴った手紙は、カルテに残されたままだった。



この番組で報道される内容のことごとくが異常で、一般病院ではこんなことはまかり通らない。東京都の実地指導でも、ほぼ全項目がa判定だったという不思議。都の職員は何を見ていたのだろう、意識的に見逃したのだろうか。残念ながら、都の担当部局に質問したものの回答が得られなかったのだという。

病室での患者さんと職員の会話は、耳を覆いたくなるようなひどいもの。看護師と准看護師はぞんざいで下品な言葉づかいで、患者さんを脅し、命令を続ける。患者さんは、看護職の性格や言動を加味して言葉を選んで話している。このような対応ができる患者さんが精神科の入院治療を受けなければならないのは、何を問題としているのだろう。このビデオと同じ言動を、一般の社会で一回でもしたら、すぐに指導を受けたり、場合によっては、懲戒解雇になるはず。


世間一般の一部では人権意識の高まりが見られるのに、精神科医療については不問に付されている。世界の精神科病床の2割を日本で占めている。精神科疾患があってもアパート生活をしている方がたくさんおられる。訪問看護や就労支援施設、訪問介護など利用すれば、十分に地域で暮らせる。

滝山病院が人工透析ができ内科的合併症の治療ができる精神科と言うことで全国から転院されてくるのだという。

数年前に、都立病院で透析導入について患者個人の意思を尊重して、透析治療を受けずに腎不全末期で亡くなられた方が全国紙で報道された。精神科の薬物治療の副作用のために食欲が増加することで過体重になり糖尿病や高血圧症、脂質異常症を合併することもある。一般医療でも、透析導入時の丁寧な説明や透析導入後の生活について患者本人としっかり相談するが、精神科疾患を持つ人に対してはいったいどういう医療がなされて透析が導入されているのだろう。

透析医療も基本的に治療費について公的助成制度がある。入院患者の5割以上が生活保護を受けている。入院透析を行い、難病患者を受け入れ、患者家族が延命治療を中止してほしいと話したあとも中心動脈栄養を続けるなど、高額な医療費を請求できる患者を入院させ、本人や家族の意思に反して治療を継続しているとも考えられる。

院長は高級車を運転し、以前朝倉病院で不正請求をしたために保険医登録から削除されていたのに、いつの間にか保険医として業務をしているのはなぜだ。このことについて、厚生労働省は個別案件なので、答えられないという。

「(一部の)精神科は収容所なのか」、21世紀の日本で。

保健所や福祉事務所の業務が増える中で、専門援助ができる職員が不足し、非正規職員(2年間の雇用期間)で対応していることも、人権を守ることを大事にする業務ができなくなっていることの理由になるのであろうか。

良心的に地域の精神保健を担っている専門職の団体が、この滝山病院に入院している患者さんたちの転院を支援しようとしているとも聞く。一人でも二人でも、精神科医療に携わっている専門職の方々が、この活動に加わってほしいものだ。

精神科医療に関心を持たないで過ごしている私のような医療従事者がいることも、大きな問題なんだと思う。

誰でも、ひどい状況に置かれたり、苦悩が重なることで、うつ病や様々な精神疾患になりうる。多くの人に、精神疾患や精神科医療、一般医療の課題について関心を持っていただきたいと強く思う。