チャック・ウェップナー
任侠ヘルパー見ようとおもったらムービープラスで9時からロッキーをやっていたので久しぶりに見てみる。
ロッキーは1975年の実話を元にスターローンが脚本を書いた話で有名ですね。
『自分の存在を証明したいんだ。必ず勝つ、絶対に倒れない。最後のゴングが鳴った時に立っていることが出来たら、俺は俺がクズじゃなかったことを証明できる』
-------C.ウエップナー
その日、アメリカの地方都市で一つの奇跡が起こった。世界や歴史のレベルで言えば大したことではなかったかも知れないが、それは紛れもない奇跡だった。
1975年3月24日。オハイオ州リッチフィールド、Richfield-Coliseum。競技場を訪れた数万の観衆が生むざわめきを遠くに聞きながら、ドレッシングルームで入念なシャドーを繰り返す、一人のボクサーがいた。後退した額に、頑強そうだが張りのない肉体。とうの昔に全盛期を過ぎた重い動作で、それでも黙々とイメージ・トレーニングを続け、試合の時を待つ。彼の名はチャック・ウエップナー。31勝9敗、WBAヘヴィ級・ニュージャージー州チャンピオン。貧しいホワイト・トラッシュの家に生まれ、荒んだ少年時代の間に覚えたボクシングを生きる手段に選び、この日初めて世界戦の舞台に挑むことになった男。・・・・・だがこの日集まった観客達は、彼のごく僅かな知己を除いて、誰一人彼の勝利を望んでいなかった。
モハメド・アリ。------『ザ・グレーテスト』、『20世紀最高のアスリート』、『ボクシングを芸術に変えた男』。スポーツの枠を飛び越え、アメリカを制覇する「ブラック・パワー」の象徴として多くの崇拝を受ける英雄が、彼がこの日戦う相手であったからだ。カリスマ的世界チャンピオンと、引退間近の州チャンピオンの世界戦。このミスマッチが実現した理由は、当然ながらアリの側の事情に拠る。
この前の試合で『キンシャサの奇跡』(注1)と呼ばれる大逆転劇を演じ、『怪物』と呼ばれたJ・フォアマンから世界王者の座を奪回したアリだったが、一年以上の準備期間を費やして臨んだ大一番を制したことで緊張の糸が切れ、コンディションは不調もいいところだった。チャンピオンである以上防衛戦を行わなければならないが、初防衛戦から危険な相手の挑戦を受けたくはない。「そこそこのキャリアがあって、かつ危なげなく勝てる相手」・・・・・要するに、アリ陣営は体のいい噛ませ犬を探していたのである。候補に挙げられたボクサー達は皆「冗談じゃない」と逃げ、二転三転した話が最後に持ち込まれたのが、36歳のローカル王者の所だった。
「オハイオの田舎者どもに、世界チャンプのボクシングを見せてやる。すぐ終わらないように、せいぜい頑丈なのを用意しておけ」
会見の場で、意気揚々と恒例の毒舌を吐くアリ。周囲の人間は皆揃って「無謀だ」と忠告したが、試合を受けた当人だけは、この試合を己の人生における最初で最後の晴れ舞台と信じた。とうに諦めていた世界戦の舞台、しかも相手は名だたる「ザ・グレーテスト」。全てを賭けるのに何の悔いも無かった。
「自分の存在を証明したいんだ。必ず勝つ、絶対に倒れない。もし最後のゴングが鳴った時に立っていることが出来たら------」冒頭の言葉は、ウエップナーが雑誌のインタビューに答えて言った台詞である。
試合は始まった。世界王者のオーラをまとって、余裕たっぷりに挑発してくるアリに対して、ウエップナーは意外な行動を取る。固くガードを固めてアリを誘い、打とうとすると飛び込んでいって遮二無二しがみ付く、徹底的なクリンチ戦術に出たのである。抱きつきながら上手くレフェリーの目を盗み、後頭部をポカポカと殴る。無論反則打だ。苛立たしげに突き放し、反則をアピールするアリだが、ウエップナーは注意を受けても打ち合いを避け、要所要所でしつこくクリンチを繰り返しては、更に足を踏んだり頭突きを入れたりと、アリの神経を逆撫でし続けた。大ブーイングの中で散漫な試合展開が続き、遂に苛立ちが頂点に達したアリが、お返しとばかりにウエップナーの後頭部を殴り返すようになった時・・・・・第9ラウンド、突如としてウエップナーは動いた。今までの逃げ腰がウソのように猛然と突進し、体ごとぶつけていくような強力な連打を放ってアリをロープ際に追いやる。慌てたアリは、それでもそのパンチの殆どを捌いてみせたが、故意か偶然か踏み出されたウエップナーの足に蹴躓いてよろけたところに頭部を掠められ、尻餅を着いてしまった。判定はスリップではなく、ダウン。その瞬間、あっけに取られたように大観衆が静まり返った。「ザ・グレーテスト」を相手に、ほぼ無名のロートルボクサーがダウンを先取してみせたという事実が信じられなかったのである。慌てて立ち上がり、レフェリーにスリップをアピールするアリ。その背後で興奮に肩をあえがせながら、構えを解かずに立っているウエップナーの姿を見た時、観客達は初めて、この冴えない無名ボクサーがこの試合に命を掛けていることを知った。
アリの顔が憤怒に染まった。世界王者のプライドを、取るに足らない相手に傷つけられたという怒り。余裕もテクニックもかなぐり捨て、まさに「殴りかかる」といった表現がピタリの勢いで、ウエップナーを猛襲する。作戦は見事に当たり、ここに至ってアリのペースは完全に乱されたと言って良かったが、単純な暴力というだけでも、世界チャンプの力量はウエップナーのそれを遥かに超えていた。たちまちパンチの嵐に晒され、なすすべも無く翻弄される。------------だが。
倒れない。何発殴られても倒れない。拳を顎の下にがっきと構え、「ブリーダー(流血者)」の渾名の通りに、腫れ上がり切れた目尻と唇から大量の血を流しながら、ウエップナーは打ち掛かるアリを迎え撃つようにして突進し、パンチを繰り出し続けた。11R、12R・・・・・・観客達もいつしか、噛ませ犬と思われていた男が見せた一世一代の奮闘に魅せられ、大声援を送っていた。
・・・・・そして、最終の15R。血と汗に塗れ、人間のものとも思われないほどに顔面を腫れ上がらせたウエップナーの五体には、もはや一滴のエネルギーすら残されていなかった。よろめく足取りでリングの中央に進み出るが、すぐロープ際に追い詰められ滅多打ちにされる。それでも両手でロープを掴み、断固としてダウン拒否の姿勢を見せるウエップナーに覆いかぶさるように、こちらも汗まみれになったアリがパンチを打ち下ろす。一発、二発、三発・・・・・やがて、力尽きたようにウエップナーの身体はズルズルと崩れ落ちたが、TKOのゴングは、確かに彼がマットに横たわる、数秒前に鳴り響いた。地鳴りのような観客達の歓声。それは、憮然とした表情で勝ち名乗りを受けるアリではなく、紛れも無くロープにすがって立ち上がろうとしている満身創痍の敗者に向けられていた。柵を乗り越えてリングの下まで押し寄せてきた観衆の中に、自らが招待していた友人達の姿を見つけたウエップナーは、トレーナーに渡された氷嚢を顔に押し当てながら、言った。
「皆、飲みに行こう。今夜は俺のオゴリだ!」
この試合を下宿のテレビで見ていた、イタリア移民出身の売れない俳優がいた。猛烈に感動した彼は、三日三晩掛けて一本の映画の脚本を書き上げると、オーディションの席で、プロデューサー達にそれを売り込んだ。その映画の題名が『ロッキー(1976)』、主演を務めることになるその俳優の名が、S.スタローンである。
http://blogs.dion.ne.jp/public/archives/4610667.html
そうゆうことですね。
Muhammad ali vs chuck wepner フルラウンド
ロッキーは1975年の実話を元にスターローンが脚本を書いた話で有名ですね。
『自分の存在を証明したいんだ。必ず勝つ、絶対に倒れない。最後のゴングが鳴った時に立っていることが出来たら、俺は俺がクズじゃなかったことを証明できる』
-------C.ウエップナー
その日、アメリカの地方都市で一つの奇跡が起こった。世界や歴史のレベルで言えば大したことではなかったかも知れないが、それは紛れもない奇跡だった。
1975年3月24日。オハイオ州リッチフィールド、Richfield-Coliseum。競技場を訪れた数万の観衆が生むざわめきを遠くに聞きながら、ドレッシングルームで入念なシャドーを繰り返す、一人のボクサーがいた。後退した額に、頑強そうだが張りのない肉体。とうの昔に全盛期を過ぎた重い動作で、それでも黙々とイメージ・トレーニングを続け、試合の時を待つ。彼の名はチャック・ウエップナー。31勝9敗、WBAヘヴィ級・ニュージャージー州チャンピオン。貧しいホワイト・トラッシュの家に生まれ、荒んだ少年時代の間に覚えたボクシングを生きる手段に選び、この日初めて世界戦の舞台に挑むことになった男。・・・・・だがこの日集まった観客達は、彼のごく僅かな知己を除いて、誰一人彼の勝利を望んでいなかった。
モハメド・アリ。------『ザ・グレーテスト』、『20世紀最高のアスリート』、『ボクシングを芸術に変えた男』。スポーツの枠を飛び越え、アメリカを制覇する「ブラック・パワー」の象徴として多くの崇拝を受ける英雄が、彼がこの日戦う相手であったからだ。カリスマ的世界チャンピオンと、引退間近の州チャンピオンの世界戦。このミスマッチが実現した理由は、当然ながらアリの側の事情に拠る。
この前の試合で『キンシャサの奇跡』(注1)と呼ばれる大逆転劇を演じ、『怪物』と呼ばれたJ・フォアマンから世界王者の座を奪回したアリだったが、一年以上の準備期間を費やして臨んだ大一番を制したことで緊張の糸が切れ、コンディションは不調もいいところだった。チャンピオンである以上防衛戦を行わなければならないが、初防衛戦から危険な相手の挑戦を受けたくはない。「そこそこのキャリアがあって、かつ危なげなく勝てる相手」・・・・・要するに、アリ陣営は体のいい噛ませ犬を探していたのである。候補に挙げられたボクサー達は皆「冗談じゃない」と逃げ、二転三転した話が最後に持ち込まれたのが、36歳のローカル王者の所だった。
「オハイオの田舎者どもに、世界チャンプのボクシングを見せてやる。すぐ終わらないように、せいぜい頑丈なのを用意しておけ」
会見の場で、意気揚々と恒例の毒舌を吐くアリ。周囲の人間は皆揃って「無謀だ」と忠告したが、試合を受けた当人だけは、この試合を己の人生における最初で最後の晴れ舞台と信じた。とうに諦めていた世界戦の舞台、しかも相手は名だたる「ザ・グレーテスト」。全てを賭けるのに何の悔いも無かった。
「自分の存在を証明したいんだ。必ず勝つ、絶対に倒れない。もし最後のゴングが鳴った時に立っていることが出来たら------」冒頭の言葉は、ウエップナーが雑誌のインタビューに答えて言った台詞である。
試合は始まった。世界王者のオーラをまとって、余裕たっぷりに挑発してくるアリに対して、ウエップナーは意外な行動を取る。固くガードを固めてアリを誘い、打とうとすると飛び込んでいって遮二無二しがみ付く、徹底的なクリンチ戦術に出たのである。抱きつきながら上手くレフェリーの目を盗み、後頭部をポカポカと殴る。無論反則打だ。苛立たしげに突き放し、反則をアピールするアリだが、ウエップナーは注意を受けても打ち合いを避け、要所要所でしつこくクリンチを繰り返しては、更に足を踏んだり頭突きを入れたりと、アリの神経を逆撫でし続けた。大ブーイングの中で散漫な試合展開が続き、遂に苛立ちが頂点に達したアリが、お返しとばかりにウエップナーの後頭部を殴り返すようになった時・・・・・第9ラウンド、突如としてウエップナーは動いた。今までの逃げ腰がウソのように猛然と突進し、体ごとぶつけていくような強力な連打を放ってアリをロープ際に追いやる。慌てたアリは、それでもそのパンチの殆どを捌いてみせたが、故意か偶然か踏み出されたウエップナーの足に蹴躓いてよろけたところに頭部を掠められ、尻餅を着いてしまった。判定はスリップではなく、ダウン。その瞬間、あっけに取られたように大観衆が静まり返った。「ザ・グレーテスト」を相手に、ほぼ無名のロートルボクサーがダウンを先取してみせたという事実が信じられなかったのである。慌てて立ち上がり、レフェリーにスリップをアピールするアリ。その背後で興奮に肩をあえがせながら、構えを解かずに立っているウエップナーの姿を見た時、観客達は初めて、この冴えない無名ボクサーがこの試合に命を掛けていることを知った。
アリの顔が憤怒に染まった。世界王者のプライドを、取るに足らない相手に傷つけられたという怒り。余裕もテクニックもかなぐり捨て、まさに「殴りかかる」といった表現がピタリの勢いで、ウエップナーを猛襲する。作戦は見事に当たり、ここに至ってアリのペースは完全に乱されたと言って良かったが、単純な暴力というだけでも、世界チャンプの力量はウエップナーのそれを遥かに超えていた。たちまちパンチの嵐に晒され、なすすべも無く翻弄される。------------だが。
倒れない。何発殴られても倒れない。拳を顎の下にがっきと構え、「ブリーダー(流血者)」の渾名の通りに、腫れ上がり切れた目尻と唇から大量の血を流しながら、ウエップナーは打ち掛かるアリを迎え撃つようにして突進し、パンチを繰り出し続けた。11R、12R・・・・・・観客達もいつしか、噛ませ犬と思われていた男が見せた一世一代の奮闘に魅せられ、大声援を送っていた。
・・・・・そして、最終の15R。血と汗に塗れ、人間のものとも思われないほどに顔面を腫れ上がらせたウエップナーの五体には、もはや一滴のエネルギーすら残されていなかった。よろめく足取りでリングの中央に進み出るが、すぐロープ際に追い詰められ滅多打ちにされる。それでも両手でロープを掴み、断固としてダウン拒否の姿勢を見せるウエップナーに覆いかぶさるように、こちらも汗まみれになったアリがパンチを打ち下ろす。一発、二発、三発・・・・・やがて、力尽きたようにウエップナーの身体はズルズルと崩れ落ちたが、TKOのゴングは、確かに彼がマットに横たわる、数秒前に鳴り響いた。地鳴りのような観客達の歓声。それは、憮然とした表情で勝ち名乗りを受けるアリではなく、紛れも無くロープにすがって立ち上がろうとしている満身創痍の敗者に向けられていた。柵を乗り越えてリングの下まで押し寄せてきた観衆の中に、自らが招待していた友人達の姿を見つけたウエップナーは、トレーナーに渡された氷嚢を顔に押し当てながら、言った。
「皆、飲みに行こう。今夜は俺のオゴリだ!」
この試合を下宿のテレビで見ていた、イタリア移民出身の売れない俳優がいた。猛烈に感動した彼は、三日三晩掛けて一本の映画の脚本を書き上げると、オーディションの席で、プロデューサー達にそれを売り込んだ。その映画の題名が『ロッキー(1976)』、主演を務めることになるその俳優の名が、S.スタローンである。
http://blogs.dion.ne.jp/public/archives/4610667.html
そうゆうことですね。
Muhammad ali vs chuck wepner フルラウンド