こんにちは!
お金払うってどうなんですかね~?
さて
医師偏在に関する議論で、問題視されるのが美容医療の道に進む医師の増加です。2
年間の臨床研修後、すぐに美容医療の道に進む医師を形容し、直美(ちょくび)との
言葉も生まれるほどですが、実態はどうなのでしょうか?
折しも厚生労働省が美容医療の適切な実施に関する検討会を発足させており、同検
討会の構成員であり、日本美容外科学会の理事長を務める北里大学医学部形成外科・
美容外科学教授の武田啓氏に美容医療を巡る現状をお聞きした(2024年7
月)インタビューから。
北里大学形成外科の専攻医の定員は1学年5人です。最近の動向はいかがですか。またどんな医療に従事したいと考え、入局されるのでしょうか?
2022年度9人、2023年度3人、2024年度5人という状況です。年による差があり、
応募が多い時もあれば、定員に満たない時もあり、ここ10年で見れば平均4人です。
形成外科は19の基本領域の一つであり、専門研修プログラムは4年間、その後は大学
病院や市中病院など様々なキャリアを歩まれます。大学病院の形成外科ですから、先
天性疾患の治療や乳がん切除後の乳房再建、外傷形成外科やマイクロサージェリーな
どの分野を目指される方が多いです。中には美容医療の道に進まれる方もいますが、
その数はそれほど多くはありません。
その一方で最近、「直美(ちょくび)」と言い、2年間の臨床研修修了後に、そのまま自由診療の美容医療の分野に進まれる方が増えていると聞きます。
関連の学会の新規入会者や大手のクリニックの採用状況などを見聞きする機会があ
り、その話を総合すると年間200人くらいいるのではと言われています。厚生労働省
は、医師の偏在是正に向け、専門研修のシーリングで各領域の定員をコントロールし
ようとしている時に、多くの医師が美容医療の分野に流れてしまっては、その前提が
崩れてしまうでしょう。国公立か私立かを問わず、医学部には国の税金が投入されて
います。医師になった以上は、それを国民に還元する役割も担っているのではないで
しょうか。
直美(ちょくび)の場合、医師の知識、技術などの面で問題はないのでしょうか?
美容目的であっても、人に何らかの侵襲を加えることには変わりはありません。二
重まぶたにしたり、皮膚のピーリングなどの比較的簡単な手技でも、縫合のスキル
や、解剖、創傷治療などの知識が必要です。麻酔を伴う場合には、万が一に備えて、
救急対応もできなければいけません。今の臨床研修は各診療科を短期間ずつローテー
ションするやり方であり、2年間で美容医療に必要な知識、スキル、経験、さらには倫
理観を身に付けることは難しいのではないでしょうか。
自由診療では期待値が高いので、結果が悪かった場合のトラブルのリスクも大きいのでは?
その通りだと思います。見た目の仕上がりを求める美容医療では、患者さん自身が結
果を把握できます。それだけシビアな世界なので、相応のスキルがなければ医師は淘
汰されるはずです。
そもそもなぜ美容医療に進む医師が増えているとお考えですか?
心臓外科、脳神経外科、一般外科などの分野で、なり手がなぜ少ないかですが、一つ
はやはり仕事が大変であることが挙げられます。世間一般からすれば、医師の給与は
高いと思われていますが、本当に厳しい仕事に対しての対価は、決して十分ではない
と思います。それ故、回避行動として、美容外科や在宅医療の世界に流れる。このよ
うな選択をする若手医師がいることを前提に、学会レベルだけではなく、日本の医療
行政全体で考える必要があるでしょう。診療報酬の関連で言えば、他の分野でも課題
があります。例えば形成外科の場合、見た目が問われますが、皮膚腫瘍切除でも仕上
がりの良さは診療報酬では評価されません。診療報酬の限界とも言え、医師の腕が評
価される自由診療志向を後押ししている一因ではないでしょうか。
厚労省の「美容医療の適切な実施に関する検討会」では、診療面と運営面の双方について検討していく方針です。自由診療において、一定の質を担保するにはどんな仕組みが必要とお考えですか?(『違法・不適切な「美容医療」にメス、厚労省検討会が初会合』を参照)。
広告の在り方も含めて、美容医療をめぐる問題は多岐にわたります。質の問題に限っ
ても、そもそも学会に入らず、美容医療に従事されている医師がいます。形成外科の
専門医取得には、専門研修プログラムのもとで4年間研修し、筆記試験と面接試験に合
格する必要があります。形成外科の専門医取得で美容医療を行うのに十分とは言いま
せんが、最低限必要な素養と考えています。それ以外の美容系の学会でも専門医制度
を運営しており、その内容には開きがあるとはいえ、美容医療の質担保には、何らか
の専門医の取得が必要でしょう。もっとも、自由診療において専門医取得を義務とす
ることはできません。あまり規制を強くすると、真摯に取り組んでいる医師や診療所
にとっては、かえって負担になってしまいます。だからこそ美容医療を受ける人に、
どんなキャリアの医師が美容医療に従事しているかを知っていただきたい。現状では
専門医の仕組みなどについてご存じない方が多いので、専門医取得の有無は選ばれる
基準になっていないのです。治療の有用性や有害性に関するガイドラインの整備や情
報発信も必要です。日本美容外科学会(JSAPS)を中心に、美容医療に関する5学会
は美容医療診療指針を策定しています(JSAPSのホームページ参照)。最新は2021
年度改訂版です。美容医療の分野では、薬機法未承認の薬や材料が使用され、現場で
どんどん新しい治療法が試されます。この材料を使ったらこんなトラブルがあったな
どの事例も集め、医師だけはなく、患者さんにも参考にしてもらう。美容医療はとて
も身近になっていますが、医療である以上、リスクも伴うものであり、患者さんにも
よく考えて受けてもらいたい。さらには、医師ではないカウンセラーが、手術につい
て説明したり、手術の適応か否かを決め、それに沿った手術を医師が行うといったケ
ースもあります。どの材料を使うか、どんな治療法を選択するかで仕上がりが異なっ
てくるなどと説明されると、当初の想定より治療費は高くなってしまいがちという問
題もあります。こうしたやり方の中で医師法に抵触する事例があれば、今の法制度で
対応していくことが必要です。
では今日はこのへんで・・・
Ciao!!
(美容医療とは無縁のジジイ)