『ねじまき少女』 | 本だけ読んで暮らせたら

『ねじまき少女』

THE WINDUP GIRL (2009)
『ねじまき少女』  パオロ・バチガルピ/著、 田中一江・金子浩/訳、 ハヤカワ文庫SF(2011)


SFはね、物語舞台の科学的設定・世界観が肝心だと思うわけです。


遺伝子操作の弊害が顕在化した時代にあって、疫病と農作物の伝染病の蔓延により、耐性のある遺伝子組み換え食品しか栽培できない世界。そんな世界を支配するのは幾つかのバイオ企業。

石油の枯渇によって動力源をゼンマイに頼ることになった世界。ゼンマイを巻くのは、象を遺伝子操作することによって誕生させたメゴドントと呼ばれる巨大動物。メゴドントを使役して機器を駆動させる。



中国、EUが分裂し、アメリカが消滅し、ベトナムが崩壊し、ミャンマーが飢餓に喘ぐ中、遺伝子バンクを有するタイ王国は生き残っている。

だが、地球環境の変化による海面上昇、それによる水没の危機に晒されているタイ王国の首都バンコク。

遺伝子バンクを取引材料として、世界的バイオ企業との協調関係を基盤としてタイ王国の生き残りを図ろうとする一派=通産省。

タイ王国に流入しようとするあらゆる物資の遺伝的汚染を阻止すべく、外国産物資や外国人に対する検閲を受け持つ環境省。

両者が対立するタイ王国の政情。



とまァ、物語の舞台設定はかなり複雑。

だが、近未来の一つの形として納得できる世界観である。作品に流れる退廃的な雰囲気もイイ。SF作品としては、申し分のない世界を構築しているのだろう。相当の成功を収めているのだと思う。

でなければ、SF作品に与えられる権威ある賞を幾つも受賞することはなかっただろう。



だが、私の場合、私の理解度の低さもあって、この作品世界に入り込むのに下巻半分までのページ数を必要としてしまった・・・。3/4も。

しかも、この世界観の舞台で演じる登場人物たちに対し、共感なり反感を抱けるようになるまでには更にページ数を費やすこととなった。その頃には、物語はクライマックスに至っていた・・・。



主要登場人物。

環境省の理念を意図的に曲解し、外国産物資と外国人の排斥を強硬に実践する部隊“白シャツ隊”の隊長ジェイディーと副官カニヤ。

バイオ企業幹部として、タイ王国の遺伝子バンクへの接触を図ろうとするアンダースン・レイク。

アンダースンが隠れ蓑として経営するエネルギー生産工場の経営・経理を手伝うイエローカードと呼ばれる中国人難民ホク・セン。

そして、“ねじまき少女”エミコ。 “ねじまき”とは遺伝子工学によって作り出された日本産アンドロイドで、ぎくしゃくとした動作ゆえにそう呼ばれる。



この物語世界で、いったい誰に焦点を当てて読めば良かったのか???

どの登場人物へも感情移入ができないまま物語は終わってしまった。。。