『ダーウィンの思想 -人間と動物のあいだ』 | 本だけ読んで暮らせたら

『ダーウィンの思想 -人間と動物のあいだ』


『ダーウィンの思想―人間と動物のあいだ』   内井 惣七/著、 岩波新書(2009)


著者は工学部と文学部を卒業して哲学の研究者になった方らしい。

文理融合の方なのか!? 面白いものを書かれるようだ。


この本、『種の起源』の内容の理解を補うための解説本として読むのに丁度良いだけでなく、『種の起源』が著された頃の社会状況や時代背景などについても理解しやすくなっている。さらに、『種の起源』以降に発表されたダーウィンの学説・思想や、当時から進化論を提唱していたダーウィン以外の学者たちとの関係性・競争関係についても説明してくれている。実に判りやすい。


目次を紹介しとこう。


第一章 ビーグル号の航海

第二章 結婚と自然淘汰説

第三章 ダーウィンのデモン -進化の見えざる手

第四章 種はなぜ分かれていくのか -分岐の原理

第五章 神を放逐 -設計者なしのデザイン

第六章 最後の砦、道徳をどう扱うか


この中で、個人的に特に面白かったのは第一章と第六章。

第一章「ビーグル号の航海」では、ダーウィンがその思想形成の上で影響を受けたという地質学(チャールズ・ライエルという人が書いた「地質学原理」という本)についてが紹介されている。

種の分岐や地形の変化など、現在生じている現象について、---不動のメカニズム原理の元で---、過去に生起された現象(の痕跡)との連続性から説明されなければならないとする科学的思考法が、進化生物学にも地質学にも同様に適用されなければならない・・・、という箇所などを読むと感動を覚える!


第六章では“道徳の獲得”ということに焦点を当てている。

ダーウィンの考えと対立する創造説やインテリジェント・デザイン説のなかで、人間と動物を隔てるもの、あるいは人間の特殊性を示すものとして採り上げられる“道徳”という単語に代表される心性の問題である。

こうした問題については、『種の起源』発表後の晩年の著作『人間の由来』に詳述されているらしい。

ダーウィンは、道徳感覚、良心の働き、共感能力、相互扶助、功利原理、利他的な行動など、感情面・心理面の発達・進化に関してでさえも「社会的本能」という概念を持ち込むことにより、自然淘汰説の中で説明できることを示している、とのことである。本書の解説の中でも私が最もエキサイティングに感じた箇所だ。


“ヒトはサルと同一の祖先から自然淘汰によって進化してきた”ということを始めとした進化論的な知識は、現代でこそ知らず知らずのうちにインプットされている。しかし、150年以上も前、ダーウィンがいなかった時代に、ダーウィンはそれらのことを思索し世の中に発表した。本書によって、あらためてダーウィンの革新性を思い知らされる。


巷には結構な数のダーウィン解説書が出ているようだが、コンパクトかつ明瞭さという点で本書はかなり良質な解説本なのではなかろうか。 超お薦めです。