『グラーグ57』 | 本だけ読んで暮らせたら

『グラーグ57』

THE SECRET SPEECH (2009)

  

『グラーグ57』 (上) (下)  トム・ロブ・スミス/著、 田口俊樹/訳、 新潮文庫(2009)


早くも第2弾が翻訳されちゃった。昨年のデヴュー作『チャイルド44』 がよほど売れたんだろうネ。良かった良かった。


今回もイイ出来。面白くって、200ページや300ページがあっという間だよ。

下水道内での追跡場面、嵐荒れ狂うオホーツク海上のオンボロ囚人護送船内での対決場面、強制収容所での拷問場面、ハンガリー動乱に揺れるブタペスト市街をソビエト軍の戦車部隊から逃げ回る場面、と、これらのどのアクション・シーンにもワクワク・ドキドキすること請け合い。


だが、この作者の本領はアクション・シーンではない。それ以上に、罪を背負った者達が現在を必死に賢明に生き抜くために葛藤する心理を描くことにある。

ソビエト連邦にとって都合の悪い人物達を無実の罪で逮捕してきた元国家保安省捜査官である主人公レオ・デミトフの罪。そんな夫を愛するレオの妻ライーサが過去に負った罪。かつてレオに裏切られ、復讐を果たすために蘇ったフラエラ(アニーシャ)の憎しみとそれがもたらした罪。レオとライーサの養女とされながら、決して彼らに心を開かない娘ゾーヤの悲しみと敵意。

罪を負った者と負わせた者、両者がお互いに対する複雑な愛憎感情を内包し、時にそれらをぶつけ合う。そういう様を描くのが実に巧い。こうしたところも読みどころ満載。


私としては、フラエラの憎しみとそれがもたらした彼女の言動に一番惹かれた。


お薦めです。(ただし、先に前作『チャイルド44』を読むこと!)