『私はなぜ逮捕され、そこで何をみたか。』
島村英紀。
この名前は、地震学に関心のある人なら大抵は知っている。
海底地震計を開発し、世界中の海底に機器を設置、海底地震を観測し、幾多の地球物理学的な事実を明らかにしてきた学者さんである。専門家の立場から、地震予知に対してかなり懐疑的な見解をお持ちの方でもある。
この大地震学者が2年前に逮捕された。東京の自宅に突然札幌地検の検事が来て、家宅捜査を行い、逮捕状を見せ、そのまま札幌に連行した(なぜ札幌かというと、著者は以前、北海道大学の教授をされていて、その北大在職時代のことで訴えられたからである。)。容疑は詐欺罪。
それから約半年間、接見禁止(弁護士意外との面会をまったく許されない)のまま、札幌の拘置所に閉じ込められる。
本書は、逮捕から裁判、控訴断念に至るまでの記録を、それはまァ、こと細かに記録したものだ。
特に拘置所内での生活、習慣、規則、食事などについての記述が実に細かい。拘置所での日常(?)が、科学者らしい客観的な観察と見解をもって綴られている。そういった描写が興味深く、面白い。
それにしても、この人の精神力は凄い。あそこまで自分を律することができれば、検察官の尋問などにも抵抗できるのだろう。
近いうちに拘置所に入る予定のある人には、かなり有益な参考書となるだろう。
さて、この本に書かれていることを鵜呑みにするならば、この国の取調べや裁判システムもまた、この国のその他の社会運用システムと同様、陳腐なものになってしまっているようだ。既存システムに対して何の疑問も持たず、前例に従って事を運ぶだけの思考停止状態。。。
個別の事象や案件について、その都度、常識や見識、そしてヒトの良心に従って、コトの良し悪しの程度を判断していこうとする、そういったことができなくなってきているのか!?
最初っから結論ありきの裁判や、一般企業での会議など、ほんとに非効率で無駄だ。
疲弊し、陳腐化してしまったこの国の様々なシステム。何とかならんものかネ・・・。