『正当なる狂気』
- THE RIGHT MADNESS (2005)
- 『正当なる狂気』 ジェイムズ・クラムリー/著、 小鷹信光/訳、 ハヤカワ・ノヴェルズ(2007)
ジェイムズ・クラムリーと小鷹信光の最強コンビによる最強のハードボイルド・ミステリ、ここに炸裂。
今年読んだエンターテイメント本の中じゃダントツ私好みだった。
合衆国西部の小さな町の私立探偵が、親友の精神科医から患者たちの周辺調査を行うよう依頼される。精神科医のオフィースからは治療過程や診察結果などが記録されたデータが盗まれたという。彼のオフィースに入れるのは長期治療を受けている数人の患者達だけ・・・。
患者達を尾行する先々で探偵に待ち受けているのは、数々の悲惨な死。
探偵はそれらの死の周辺を駆け巡る。警官やFBIといざこざを惹き起こし、妻や息子との間のぎくしゃくとした関係に傷つき、敵の罠に陥り、貶められ、アルコールをがぶ飲みし、マリワナやコカインに手を出す。裏切られ、傷つき、いたぶられた探偵はついに逆襲に転じる。生き残るために・・・。
ジェイムズ・クラムリーという作家、相変わらず物語の構成や展開のさせ方は下手くそだが、そんなことは全く些細なことだ。
C.W.シュグルーという主人公を通して、一人の男の愚かさ、身勝手さ、凶暴さ、怒り、悲しみ、寂しさ、優しさ、などが余すところなく描かれる。私のような、いくつになっても幼稚で無知な読者は、こういう主人公の目を通して、社会の不条理さや人間の愚かさを学び、そしてほんの少しの希望や安らぎを垣間見る。物語を読んでいる間、読み終わった余韻に浸っている僅かな間だけでも、柄にもなくそんなことを考える。
私にとって、ジェイムズ・クラムリーの描く物語は文学であり社会学だ。
ここ最近、ジェイムズ・クラムリーの他に、コーマック・マッカーシー やチャールズ・ブコウスキー といった偉大な作家たちの(文学)作品が読めた。いずれも美しさと凶暴さを兼ね備えた作品だった。こういった本が読めることがただ単純に楽しく嬉しい。
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■ 『明日なき二人』