『小さい“つ”が消えた日』
五十音村には様々な文字たちが住んでいる。それぞれの文字たちには性格がある。気のイイ奴もいれば、嫌な奴もいる。
ある夏の夜。人間達が寝付いた頃、文字たちが一堂に集まって宴会を開いている。文字たちの自慢話が繰り広げられている・・・。
“あ”さんは、「俺は一番偉い。あいうえお順でも、アルファベットでも『あ』という音を表す文字が一番はじめにくるから・・・」
“ぬ”さんは、「一番使われる回数の少ない珍しいものに価値が付くのは世界共通のことじゃない・・・」
“ら”さんは、「最近若い人達が使ってくれないから、『ら』抜き言葉で有名になっちゃったよ・・・」
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他の文字たちもそれぞれに理由を見つけて自分が一番だと主張し、大騒ぎになってきた・・・・。
そんな時、誰かが大きな声で叫んだ。
「誰が一番偉いかはわからないけど、誰が一番偉くないかはわかる。それは小さい“つ”さ。だって、彼は声を出さないからな。そんなの文字でもなんでもないさ。」
ショックを受けた小さな“つ”は五十音村を飛び出し家出をした。
家出した小さな“つ”の冒険が始まり、一方、小さな“つ”がいなくなってから日本の新聞・雑誌・テレビ・ニュースなどなど、そして人々の話し言葉・コミュニケーションがおかしくなってきて、日本中が大混乱になってきた。
その頃、家出した小さい“つ”は、森の中で遊んだり、人間の町に行ったり、東京にも行ったりしていた・・・。
と、まア~、こんな感じで物語が進行し、最期には・・・チャン・ちゃん。めでたし、めでたし。で終わる。
ストーリー、プロットは割とありきたりの、想像・予測の付きやすい物語であるが、文字に人格を与えるという設定と、登場する一つひとつの文字たちの性格付けが素晴らしい、見事な童話(?)である。
著者が与えた“文字たち”の性格付けは・・・、例えば、こんな感じ・・・。
■五十音村一の美人“み”さん。
■着物が似合い、お茶、お花をたしなむ“わ”さん。
■“さ”さん、“し”さん、“す”さん、“せ”さん、“そ”さんの、さ行家はみんな料理上手。
■いつも悩んでいる“か”さん。
この本は絵本でもある。鉛筆のようなもので描かれた絵もすばらしい。一人ひとり人格を持った文字たちの表情が微笑ましい。
この“日本語”の話をドイツの方が創作されたというのが凄い。日本人が考えも付かなかった観点からの話だ。とっくにあっても良さそうな話なのに、なぜ今まで日本人はこういう話を書かなかったのだろう。
お薦めです。