『クリスマスに少女は還る』
キャロル・オコンネル/著、 務台 夏子/訳、 創元推理文庫
聖ウルスラ学園。一風変わった児童・生徒ばかりを集めた学園。しかし、その学園の児童・生徒は天才的な知性や特異な才能を有する子供ばかりだ。
ニューヨーク州副知事の母を持ち、天賦の美貌の10歳の少女グウェン・ハブル。
グウェンの親友で、ホラー映画フリークで問題児ではあるが、誰からも愛されるサディー・グリーン。
クリスマスも近いある日、聖ウルスラ学園に通うこの2人の少女たちが、湖畔のボート小屋から誘拐された。
25歳になる地元警察官のルージュ・ケンダルには15年前の悪夢が蘇る。彼の双子の妹スーザンがクリスマスの朝死体となって発見された日のことが・・・。
ルージュは、さらわれたサディーの自転車を盗んだ男を早々に捕らえたことで、州警察の捜査官として抜擢される。彼は、知的能力を要求される犯罪捜査の場面において徐々に、閉ざされていた才能を開花させて行くこととなる。彼もまた、かつては聖ウルスラ学園の生徒だったのである。
小児性愛者の心理を研究し、若くして心理学博士号を取得した才媛アリ・クレイ、25歳。彼女は長身で、スラッと伸びきった足をスリットが深く入り込んだスカートでまとい、男たちの視線を釘付けにする。が、男たちの視線を捕らえるのは脚線だけではなかった。彼女の顔の右側には赤い大きな傷跡があるのだった。
アリ・クレイが突如ルージュ・ケンダルの前に現れたのは、長い初日の捜査が終わり、一人バーのスツールに彼が座っている時だった。彼女は15年前の彼を知っているという・・・。そして、15年前のスーザン(彼女もまた今回誘拐されたグウェン・ハブル同様、美しい少女だった)の事件と今回の事件の同一性を示唆するのだった・・・。
翌日、ルージュ・ケンダルは、アリ・クレイがプロファイラーとして捜査本部に加わったことを知る。
アリは、捜査会議で、今回の犯人は15年に渡り、何人もの少女達を惨殺してきたと推測する。そして、犯人の本来の狙いは美貌の少女グウェン・ハブルであり、グウェンを誘き出すための囮として利用されたサディー・グリーンの命は恐らく既に無い、ということを予言するのであった・・・。
聖ウルスラ学園の生徒デイヴィット・ショアは非常に内向的で、学園の寮母以外の人間と話をすることはない。消えた少女達の同級生で、いつもサディーの悪戯に驚かされながらも、彼女のことが気になる。
湖畔のボート小屋で、少女達の姿を最後に見たのが彼だった。
誘拐された少女達の母親、FBI特別捜査官アーニー・パイル、アリ・クレイの伯父で老精神科医のモーティマー、そして、15年前スーザンを殺した犯人として拘置所に監禁されている元神父ポール・マリーなど、この作品に登場する人物達は皆リアルに造形されており、物語に奥行きを持たせる。
前半部の山場は、ルージュとデイヴィッド少年との交流である。
かつてヤンキースのルーキーとして1年間、プロ選手だったこともあるルージュは、デイヴィッドのヒーローであった。ルージュもデイヴィッドの内に秘められた知性を感じ取り、少年に好意を持っていた。
ここまで、緊迫した捜査の場面、登場人物たちの憔悴しきった心理状況を描いてきた中に、突如、警察署の裏の広場で野球を始めるルージュとデイヴィッドが描かれる。いつしか、その二人の周りに他の警官達や通りにいた少年少女達が加わり、事件の影響が及ぼす暗い街中に束の間訪れた明るい時間が描かれる。
デイヴィッドの信頼を獲得したルージュは、彼から捜査を進展させる証言を得る。
その頃、監禁されていたグウェン・ハブルは部屋を脱出し、同じ建物の地階に紛れ込んだ。そこには、サディーがいた。
少女達は協力して脱出のチャンスを窺う・・・。
それにしても・・・、
ミステリ、サスペンスとして非常に良く練られたプロット・展開。登場人物一人ひとりについての描写。いずれも文句無し!の出来栄えである。
15年前に双子の妹を殺された若き捜査官ルージュ。心理学者アリ。サディーとグウェンの2人の少女。読者は、この中のどの登場人物に感情を移入させるか? それによって、4人のうちの誰もがこの作品の主人公となる。特に強烈な個性は、ホラー少女サディーである。
600ページを越える大長編だが、退屈させられるような中弛みもない。夢中で読むこと、請け合いである。
しかも・・・、
驚天動地、大感動のラストが待ち受ける。 (余りにもありきたりの云い方だが、他に言葉がない。)
このラストの大どんでん返しによって、本作は名作ファンタジーへと昇華する・・・。
最期の50ページを帰宅途中の電車の中で読んだのだが、主人公の少女達と同じ年頃の娘を持つ私は、妙に心震えた。ラストを読んでいる際には、危うく車中で落涙するところだった・・・。
フィクション、エンターテイメント小説を読んで、これだけの衝撃と恍惚感を味わったのも久しぶりだ。
ほんの僅かかもしれないが、こんな時間を過ごすことができるから、これだからこそ、「物語」を読むことが止められないんだ!
“超” が付くお薦めです。 ぜひ!!