『日本の個人主義』 | 本だけ読んで暮らせたら

『日本の個人主義』

日本の個人主義

小田中 直樹/著、 ちくま新書



以前読んだ 『歴史学ってなんだ?』 がすごく面白かった。そして、著者の学問に取り組む姿勢に好感と信頼が持てた。

で、同じ著者の、出たばかりのこの本、さっそく読んでみた。



とかく現代の日本で騒がれている?「個人の自律」。

一人ひとりが自律し、個人の責任での行動が求められている(あるいは強要されている?)日本。


このような背景にあって、あらためて著者が問いかけることとは、


■日本人は個人として自律していないのか?

■「個人主義」は重要なのか?幻想に過ぎないのか?

■そもそも“自律する”ということとはなんなのか?

■「自律」を他人に強要する、教育する、啓蒙する、ということが可能なのか?

■啓蒙は必要か?

■自律の先にあるもの、社会的関心は如何に生まれるか?


などなど・・・。


これらの問いに対する回答を導くため、著者が選んだ最大の武器は・・・、

    戦後まもなく「個人の自律」について思索した西洋経済史学者:大塚久雄の論考!

この武器を片手に、そしてもう一方の手には、近代思想 vs ポスト近代思想に関する考え、著者の専門:歴史学(社会経済史)、脳科学、認知科学、ゲーム理論など。


これらの武器を駆使しながら、エキサイティングな論考を展開する。

そして、著者が提示してみせた「個人の自律」とは!


私には、極めて常識的で真っ当な結論であったように感じた。

しかし、その常識的な結論に至るまでの論考については、一つひとつ丁寧に積み上げられている。その過程の説明が、ド素人の私にとっても非常に判り易い。


著者は、時に受け入れながら、時に否定しながら、先達の思索・思想を採り上げる。否定する場合も、その姿勢は一貫して謙虚である。その謙虚さの裏には、自らの思索に対する自信があるからなのだろう。

『歴史学ってなんだ?』 もそうだったが、非常にバランスの取れたポジションから世の中・社会を見ている(ように感じられる)。

なによりも、“日常生活に役立つ思索”を目指している?著者の姿勢が、私には心地イイ。