『天然理科少年』 | 本だけ読んで暮らせたら

『天然理科少年』

天然理科少年

 長野まゆみ/著、文春文庫



今まで、あまりファンタジーって読んだことはありませんでしたが、今年に入って数冊読みました。どれも良かったな。この本もファンタジーです(たぶん)。



中学2年生の澄々木岬(ささき みさき)は、一箇所に落ち着くことなく転居ばかり繰り返しているモノ書きの父と暮らしている。放任な父親のおかげで、転居届けも学校の転入届も自分ひとりで難無く処理できる。大抵の事はひとりでできるし、他人との係わりに関しても一定の距離を置きながら大抵の人間と無難に付き合うことができる。それだけに(というか、それだから)、これまで友達と呼べるほどの人間を持ったことがない。



転校に慣れた岬はクラス内の勢力地図を見抜くことなど造作ない。

今度転入することになったクラスでは2人の生徒が目に付いた。

一人は、洗練された容姿を持ち、頭脳明晰であろうと推察され、おそらくクラスの長であると思われる北浦梓(きたうら あずさ)。偶然にも岬の父と同じ名前だ・・・。

そして、もう一人は・・・、明らかにクラスの他の生徒から疎まれ、“まめ彦”と仇名される学級一小柄な少年、白水賢彦(しろうず まさひこ)。彼は2年前、この地に数年おきに現れるという湖で神隠しに遭い、最近、2年前とまったく変わらぬ姿で現われたと噂されている・・・。



岬は、梓と賢彦の二人に、それぞれ個別に関わることになる。

そして、まったく正反対で、接点のないように見られた二人の間にはなんらかの関係が存在することに気付く・・・。



どうして、↑ こんな内容の物語が、最後は父と息子の関係を描いたファンタジーになっているんだ!? というような、なんとも不思議な物語です。でもね、すごくいい後味の物語です。おじさんはこういう話に弱い。





(追 記)

‘あとがき’で著者の長野まゆみ氏が、御自身の住処が都内の低湿地帯にあり、人々の暮らし様や文化が密接にその土地の在り様に左右されるという主旨のことを言っていました。それを観て、最近読んだ『アースダイバー 』を思い浮かべました。

それと、不思議で後味のいいファンタジーということで、『肩胛骨は翼のなごり 』も思い出しました。

ヘディンの『さまよえる湖』といい、やたらと、他の本が読みたくなる物語でした。