『ウォータースライドをのぼれ』 その2
ドン・ウィンズロー/著、 東江 一紀/訳、創元推理文庫
このシリーズの主人公、ニール・ケアリーの魅力。
■ ストリートで育ち、幼い時から世の中を斜めに見て育った主人公ニール・ケアリーの周りの人間に対する拗ねた態度と言葉遣い(軽妙さが洒落ている)
■ ある時、一流の探偵に見込まれてストリートからの生活を脱し、高等教育まで受けさせて貰ったがために身に付いた?世間(大人たち)に対して妥協する術を併せ持ってしまったこと(それが、物事に対するバランス感覚を持たせるとともに、時に感情と行動を押し殺すブレーキにもなっている)
■ この世代の男(シリーズ中では、ハイティーンから20代後半)に特有?な“青臭い正義感”と、本来なら太刀打ちできない巨大な相手に対抗する“向こう見ずさ”を持っていること(これがなければ、ヒーロー役は務まりません)
■ 他人の心情を感じ取る繊細さ(反面、ひ弱さを併せ持つ)
このシリーズに対して期待すること・・・、上述した様々なタレントを併せ持つニール・ケアリーが傷つきながらも、当初の着地地点とは多少異なりながらも、なんとか事件を解決する(目標を達成する)という、その爽快感さにあります。
場合によっては、物語の終幕の仕方に対する“チョットした余韻”なんかにもあるかもしれません?
しかし、このシリーズ4作目には、余りそういうのがありませんでした。
この作品、ホントにニール・ケアリーが主役?って、疑いたくなるくらい、主人公ニール・ケアリーの影が薄いのです。
その分、事件発端の女性ポリー、ニールの恋人、ケーブルテレビのオーナーの妻、ある暗殺者、アル中探偵、などの脇役が、ソコソコの存在感を醸し出しています。
こうした脇役のキャラクターは、それなりに楽しませてくれます。
だけど、ストーリー展開もエンディングもソコソコ止まり。凡庸な作品に終わってしまっている、という感じが拭えません。
このシリーズのもう1人の主人公といっても良いくらいの登場人物として、ニールの育ての親であり、探偵業の上司でもある、ジョー・グレアムという片腕の調査員がいます。
この男、いわゆるハードボイルドな奴で、ニールに負けず劣らず魅力的な男です。
しかし今回は、主人公ニールの存在感が薄く、またニールもそれほどのピンチや苦悩に強いられないため、ニールを助けるグレアムのカッコ良さもイマイチ引き立つことがありませんでした。
このシリーズ、次回第5作で終了とのことですが、ハタシテもち直してくれるのか?
次作に期待です。