「ポンペイの四日間」 | 本だけ読んで暮らせたら

「ポンペイの四日間」

「ポンペイの四日間」

 ロバート・ハリス/著、菊地よしみ/訳、ハヤカワ文庫


AD79年に実際に起きた、イタリア(この当時はローマ帝国)のヴェスヴィオ火山噴火を題材にしたサスペンス?小説です。


主人公は、結果に至る要因を追求し、合理的な判断に基づく思考と行動を採る若き水道管理官です。行方不明になった前任者に代わりローマから派遣されてきた、という設定です。土木技術者でもあります。


そして、この物語の重要な脇役は、なんといっても、ローマ帝国有数の艦隊の司令長官であり、当代随一の博物学者でもあるプリニウス提督(大プリニウス)です。この実在した人物のキャラクター設定が抜群に良かったです。


もう1人の重要な脇役、それは、17年前のポンペイでの地震をきっかけに、自分の才覚で成りあがり、今ではポンペイ市を裏から操る、かつての奴隷です。


主人公の水道管理官と提督の二人については、自然現象を神々の機嫌と結びつけ神託や預言といったものに自らの行動を託す、この時代の一般的な人々とは対照的に、合理的な精神の持ち主として描かれています。

もと奴隷の権力者は、拝金至上主義者という設定で描かれています。



ある日、主人公は、提督の許可を受け、都市への水の供給がストップした原因の究明と、原因として予想される水道破損の修復作業の指揮を執るべく、ヴェスヴィオ山麓に向かいます。そこでは、・・・

と、ストーリー自体は、想定の範囲内で展開していき、特段サスペンス度やハラハラ度が高いわけではありません。

この小説は、火山噴火という状況設定と、キャラクターで読ませる物語だと思います。


私が最も気に入ったキャラのプリニウス提督は、自分の行動に絶対の自信を持ち、少々頑固です。老い先短い自分の人生を自覚しているため、火山噴火という一生に一度の自然現象を観察し、記録に残すことを最優先します。そして史実どおり、この火山噴火の最中に命を落とします。

このへんの、あくまでも創造でしかない性格の描写と、史実を絡めた話の持っていき方も上手でした。


“主人公はエンジニア”、“舞台は古代ローマ”、“状況設定は火山噴火”、と、まるで私のために書いてくれたかと錯覚させてくれるようなサスペンス小説でした。