「サッカー監督という仕事」 | 本だけ読んで暮らせたら

「サッカー監督という仕事」



著者: 湯浅 健二
タイトル: サッカー監督という仕事    新潮社


5・6年前、サッカー・ジャーナリストで、ドイツサッカー協会のスペシャル・ライセンス(プロ・サッカー・コーチ・ライセンス)保有者である湯浅健二氏のウェブをよく見ていました。



■敵ボール保持者へのプレッシングがなぜ必要なのか、プレスを掛ける
 プレイヤーとその周りで補佐するプレイヤーとの間にはどのような意思
 の疎通が必要なのか
■パスの出し手と受け手、その2人のプレイヤーのサイドで、または背後
 で、第3のプレイヤーの動きはどうあるべきか、ボールのないところでの
 プレーとは、
■フラット・ラインによる守備システム、自陣ゴールで、マン・マークに
 切り替えるべき瞬間はいつなのか

などなど、
その理由を具体的に挙げた説明が非常にわかりやすくて、代表の試合やJリーグの試合があった後には、湯浅氏の解説を読みに行っていました。

その湯浅氏が2000年3月に書いたこの本、上記のようなサッカーに関する、なぜ?どうして?の解説がてんこ盛りだろうと思って飛びつきました。
期待通り、いろいろな何故についての説明がありました。

しかし、この本の特徴は、それだけではありませんでした。

と、この本の特徴を述べる、その前に、・・・

ちょうどこの湯浅氏の本が出た頃、「上司が鬼とならなければ・・・」とかいうようなビジネス書が出ていて、それを読んだらしい社長だか役員だかが、中間管理職層にも半ば強制的に読むことを薦めていました。
その話を聞いて、私も本屋でチョットだけその本を立ち読みしてみたのですが、そのクダラナイこと。いかにも独裁的な感覚の著者が(その頃の言葉ではトップのリーダーシップ)、「組織を目的に向けて、一丸と動けるようにするためには、ナンタラ・カンタラ!!」みたいな、精神論的なことが書いてありました。
くっだらねー、こんな本読んで感動してるようだから、この厳しいご時勢にも関わらず、いつまでもお前らみたいなのが社長or役員やってられるんダー、と思っていました(今じゃ、会社の売り上げは減るばかりです・・・)。

一方、湯浅氏が言うには、・・・

プロのサッカー選手は一人ひとりが独立採算の個人事業主です。その個人事業主たちをまとめて、勝利に導くための道筋を示す監督もまた、プロのマネージャーでなければならず、当然そのためのスキルとパーソナリティが求められ、それを獲得するための訓練を積んでいなければならないはずである。と。

“サッカー監督”または“サッカー選手”というところを自分の職業、例えば私なら、“エンジニア”と置き換えると、なかなか示唆に富んだことが書かれていて、思わず納得してしまうところが多くありました。

私が勤務する会社のことを考えた場合、私たちエンジニアは、事業主とまではいかないけど(しかし最近では、前年度の査定による年俸制なので半ばプロ・スポーツ選手の様にはなっています)、基本的には一人ひとりが個人ベースで仕事を行っています。大きな仕事の場合はチームを組みますが、その場合でも業務を分割し担当者を決めます。そして、担当者の責任で各分割業務を行います。したがってこういう場合でも、基本は個人責任での仕事です。
こういう仕事の仕方は、なにも私の会社だけではないと思います。

このような、サラリーマンの世界でも、良くも悪くも個人責任での業務形態が基本となるような時代には、むしろ、湯浅氏の「サッカー監督という仕事」みたいな本がビジネス書には最適だナと思ったのでした。

「上司が鬼と・・・」みたいな本を読むんだったら、「サッカー監督という仕事」を読め!!
と、いいたい。