『女には向かない職業』

著者: P.D.ジェイムズ, 小泉 喜美子
タイトル: 女には向かない職業
「女には向かない職業」 P.D.ジェイムス/著、小泉喜美子/訳
3/17「漂う殺人鬼」 =英国ミステリー、3/19「Forget-me-not」 =女性探偵、の記事を書いてみて思い出したのが、P.D.ジェイムスが生み出した可憐な女性探偵コーデリア・グレイを主人公とした「女には向かない職業」という作品です。
著者P.D.ジェイムスは、英国本格ミステリーの第一人者といわれ、1962年以来、スコットランド・ヤードの詩人警官アダム・ダルグリッシュ(デビュー時は主任警部、現在では階級もかなり上がりました。詩集を発表するような知的で物静かな男、という設定です。)を主人公とした、かなり文学色の強いミステリーを発表し続けています。
“文学色が強いミステリー”。彼女は自ら、
“「推理小説」に着せられた拘束は自分の支えであり、その中で純文学作家になりうる”
と口にしているとか、いないとか?(なんか、高村薫みたい・・・? 逆か? 高村薫がP.D.ジェイムスみたいなのか?)
彼女は、なんと、1920年生まれというから現在85歳! つい最近も新作が翻訳発表されたばかりです(すばらしい)。
そんな彼女の作品を敬遠する人も多いと聞きます。
ミステリーなのに、エンターテイメントなのに、なんで、こんなに堅苦しい内容にする必要があるのか、とか、厚すぎて読み終わるのが大変、とか・・・
たしかに、彼女の作品を読むには、ちょっとした気合を要するかもしれません。私も彼女の作品を読む場合は、電車の中や騒がしいところを避けます。他に気を紛らわすことがあると、すぐに内容が分からなくなってしまうからです。
もっとも私の場合、どんな本でも読み終わってチョットたつと、内容のほとんどを覚えていませんが・・・
しかし、ここで紹介する「女には向かない職業」は、P.D.ジェイムスの作品の中でも、ちょっと違います。だいぶ人気もあるようです。
物語は、22歳の娘コーデリアが、元スコットランド・ヤード刑事であり、探偵事務所の所長バーニー・プライドの事務所内での自殺を発見するところから始まります。名前ばかりの共同経営者であるコーデリアは、バーニーのために一人で探偵事務所を続けることを決心します。
そして、最初の依頼に対する調査が・・・
この作品は、純粋に、事件の背後にある企みと、複雑な仕掛けを解いていく過程を楽しめるようになっています。そこのところが、“逃げる必要の無い”作品になっているのだと思います。
そして、なんといっても、主人公コーデリアに対して人気が出たのではないかと思います。
主人公コーデリア・グレイの知性と可憐さ、そして、ひた向きさ、それは、「ルパン三世:カリオストロの城」のクラリスの純真さに通じるものがある、と云えば理解してもらえるでしょうか。
コーデリアは、真相を自分の中だけにとどめたまま、事件を解決します。
しかし、事件の真相を知るもう一人の人物がいました。
その人物こそ、元事務所長バーニー・プライドの上司であった、ダルグリッシュ警視です。
この物語のラスト、彼女はダルグリッシュ警視の事情聴取を受けます。
訳者の故・小泉喜美子氏は、この下りを訳しているときに涙がにじみでてきたそうです。
最後の最後、コーデリアの無垢な気持ちが、ダルグリッシュ警視と読者の心情を揺り動かします。