「スコッチに涙を託して」

著者: デニス レヘイン, Dennis Lehane, 鎌田 三平
タイトル: スコッチに涙を託して
「スコッチに涙を託して」
デニス・レヘイン/著、鎌田三平/訳、角川文庫
フィリップ・マーローが確立した私立探偵像。その系譜を引き継ぎ、知性と軽口とメランコリーを身に付けた、ボストンの私立探偵パトリック・ケンジーと、その相棒アンジー・ジェナーロのデビュー作です。
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パトリック・ケンジーは、古都ボストンから少し離れたドーチェスターという貧しい白人達の住む町に事務所を構えている。この町は彼が生まれ育った場所でもある。
危険な箇所へは四十四口径マグナム・オートマチックを上着の下に吊るして行く。射撃が下手で、万が一撃たなければならなくなった場合に、相手のどこでもいいから当てて致命傷となってそれっきり立てなくさせる必要があるためだと・・・下手に小口径で腕にでも当たったら、ただ相手を怒らせるだけになるからだと・・・
絶対に誰にも屈せず、パトリックが撃ち損じた凶悪常習犯に二発の銃弾を打ち込んだほどの女性であるアンジー・ジェナーロ。
パトリックの幼馴染であり親友でもある彼女は、2人の幼馴染であるフィルと結婚している。アンジーはフィルからドメスティック・バイオレンスを受けながらも、いまだ別れられない。この2人の関係をパトリックは理解できない。かつて、パトリックは、アンジーに対して暴力を振るうフィルを半殺しの目に合わせたこともある。
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ある日、パトリックは地元選出の下院議員に呼び出される。ネクタイをしていなければ入れない、リッツ・カールトン・ホテルに。普段はジーンズにダイバーシャツのパトリックも正装していた。下院議員から紹介された依頼人は上院議員。
上院議員のオフィースから、黒人の年老いた清掃係とともに書類が消えた。 「清掃係の老女を探し、書類を取り返してもらいたい」 上院議員からの依頼内容であった。
書類と老女を捜す過程で現れる様々な謎。ボストンの町に銃声が鳴り響き、死体が積み重なる・・・
主人公達の育った環境・背景や2人の微妙な関係は、ストーリーの進行に伴って徐々に明らかになり、また、彼らの思考や行動に影響を及ぼす。
悲しい事件。自らに傷を負いながらも謎の解明に向けて疾走する主人公達。明らかになる澱んだ真実。
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現代社会の負の側面に対するパトリックとアンジーの感じ方、それに対する対処の仕方、それらに共感してしまいます。
“謎解き”としての話の展開も良くできていると思います。
今現在のハードボイルドでは、このシリーズの作品が一押しです。