いつものように山の仲間たちが遊んでいると
峠を越えて、痩せた弱々しい一人の老人が
とぼとぼ歩いてくるのが見えました。
老人は、とても疲れて
お腹を空かせているように見えました。
「お坊さんかな?」熊が首をひねりました。
「随分長い距離を歩いてきたようだね」
猿が言いました。
「身なりは良くないけど優しそうな顔をしているよ」
狐が言いました。
ススキの繁みの中では、小さなウサギが黙って
その老人を見つめていました。
ウサギは小さくて身体も弱いので、
いつもみそっかすでした。
「もしもし、おじいさん、この山を越えるのは
大変ですよ。今夜はここでお休みなさいよ。
今、岩を転がして座るところを作ってあげますからね」
熊が老人に声をかけました。
「そうですよ。そのような薄着では寒いでしょう。
僕は薪を集めてきてあげます」
狐がさっと駆け出していきました。
「それでは、僕は喉の渇きを癒す果物を
探してきましょう」
猿が木を登り始めました。
老人は何度も頭を下げて動物達に感謝しました。
小さなウサギは、その様子をススキの繁みの
中から見ています。
やがて老人は岩に腰掛け、ぱちぱちと
暖かい炎が上がる焚き火の前で、
果物をおいしそうに食べ始めました。
その様子を満足げに見ていた動物たちは
繁みの中でじっとしているウサギに気がつくと
口々に文句を言いました。
「おまえはいったい何をしているんだ」
「みんながこうして役に立とうとしてるのに」
「そんなところに隠れているなんて」
ウサギはそっと目を伏せて小さな声で言いました。
「私には何もできませんが、どうぞ私の肉を
召し上がってください」
ウサギはパッと飛び出すと、燃え盛る焚き火に
飛び込んでしまいました。
「ウサギよ、おまえの気持ちはとても尊いものだ」
次の瞬間、老人は神々しい光に包まれて
ウサギの魂を抱いていました。
老人は、仏様だったのです。
仏様はウサギを哀れに思い、
空に浮かぶ白い月に上げてやりました。
だから、今もウサギはお月様にいるのです。
とても良い童話だと思います。
どうして仏様はこんなにも試すようなことを
するのでしょ?
ウサギを月に上げる力があるのなら
最初から食べ物や着る物を用意して
貧しいものたちに分けてあげないのだろう?
ウサギは献身的で愛すべき存在ですが
正義の立場からウサギを非難した
他の動物達は、目の前で火に飛び込んだ
ウサギを見て、どんな気持ちになっただろう?
物語は、ある一面からだけ読んだのでは
真実を見失う。