今から30年あまり前のこと。

当時の私は入社2年目、初めての東京出張。


宣伝部の仕事で

読売テレビのドラマに出演して下さる、

いしだあゆみさんに

インタビューをすることになった。


いしだあゆみさんと言えば!

日本アカデミー賞など数々の賞を受賞する“大女優”。


仕事をはじめて、まだ間がない私なんかが

マイクを向けてお話を聞いて良いのだろうか…


とは言え、

視聴者の皆さんが、そのドラマを観たくなる

興味をそそる一言を!

“大女優”から引き出さなくてはならない。


えーーーっ!

どうしよう…


出張の1週間前から

ドラマのPR動画を観たり、

「北の国から」を借りて来て観たり、

来歴を調べたり。


いしだあゆみさんと何度か仕事をしたことのある

読売テレビの先輩に

いしださんの好きなものを聞いたり。


昼ニュースや夜勤のニュース、

他の番組のロケに行っている間も、

すっかり「いしだあゆみ」さん漬けの日々が続いた。


インタビュー当日も

東京に向かう新幹線の中で、

この1週間に作り上げた膨大ないしださんの資料を

頭に叩き込む。


そして向かったスタジオ。

慣れない、アウェイの状況に

ただただドキドキする私。


「いしだあゆみさん、入ります!」


スタッフの声。

緊張もピークを迎え、

作った資料の内容など、ぶっ飛んでいた。


心臓が飛び出るような想いをしていた私に

その様子を見かねた宣伝部の先輩が

助け舟を出してくれる。


「彼女は2年目になったばかりのアナウンサーで、

 まだヒヨッコなんです。

 鍛えてやって下さい。」


冗談まじりに紹介をしてくれたのだ。


いやいやいやいや…

有り難い。


ところが!!

その時、いしださんが仰った一言が…


『いやん、私の方がドキドキしちゃう、ねぇ。

 なんでも自由に聞いていいのよ。』


!!!


グッと、この言葉で、

いしださんと私の距離が縮まったのである。


“大女優”にもかかわらず、

可愛らしさをまとったいしだあゆみさんに、

胸がキュンとしてしまった。


その後も、

ごく普通に親しい感じで、

ずっと話し続けて下さったお陰で

私の緊張もどんどんほぐれ、

素敵なインタビューを完了させることが出来た。


凄いっ!!


“大女優”と言うのは、

その名前にふんぞり返るのではなく、

出会った人みんなを

ただただ魅了してしまう人なのだ。


そして、

こんな駆け出しの私を気遣って下さった

いしださんの優しさが嬉しかった。


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今朝、いしだあゆみさんの訃報を知りました。


あのインタビューの日の

キラキラ輝く笑顔と優しい声が蘇ります。


心からご冥福をお祈りします。