有り難いことに東京でお仕事。
打ち合わせと本番の間隙を縫うようにして
母に会いに行く。
『東京もあったかくなって来たね、ママ。
毎日、何してるの?』
「何って…
天井を見てるよ。」
胸がしめつけられる。
返す言葉が見つからない。
母がお世話になっているのは
いわゆる“老健施設”。
入っていられるのは3ヶ月と決まっている。
とは言え、
次に入る有料老人ホームが見つからず
もう7ヶ月もお世話になっている。
3ヶ月を過ぎると
リハビリの回数も少なくなるらしい。
朝から天井を見るしかない母のことを考えると
気が変になりそうだ。
たまに会った時くらい、と
お散歩に出る。
施設の入り口に飾られた雛人形。
「きれいだね。
うちのお雛様も飾ってあげないとね。
小さい頃、なおみちゃんがイタズラして
五人囃子の楽器を変えたりしてね…」
嬉しそうに話す母。
何週かぶりに沢山話しているようだ。
このまま連れて帰ってしまいたい…
でも出来ない。
チチチチ…チチチチ…
面会の受付で渡されたストップウォッチが鳴る。
10分が過ぎた。
母の笑顔を胸に…
仕事場に向かう。