念ずれば…

人は大きな力を手に出来る。

人知を越える力。


そんなものはこの世に存在しない。


ずっと、

そう思って来た。


しかし、

今は…

そんな力がこの世に存在しないよう祈っている。





小学校時代、

スキースクールでスキーを教える先生が

担任をするクラスになった。


そのお陰で

冬と春、年に2回は

毎年、スキーに行くようになる。


初めてするスキーにハマりまくり、

技術を磨いてはスキー検定を受ける。

回を重ねるごとにレベルもあがり、

小学6年になる頃には

準一級にまで手が届くようになった。





そんな矢先。

泊まりがけのスキースクールで、

だんだんと羽目を外すようになって行った。


小学生にとって、

親の元を離れ…

友達と1週間近く寝食を共にすることは

最高に楽しい時間。


最初は先生の言うことをキチンと守っていたが、

高学年になると知恵も働いて来る。

異性にも興味が出る。


ある、春スキーのスクールの夜。

仲の良い先輩たちと計画を練って、

男子の部屋に女子が集まり、

男女混ざって、一晩中、怖い話をする企画を立てた。


1人一本の懐中電灯を持って、

自分が体験した怖い話をして行く。


話し終わると自分の懐中電灯を消す。

全部で10人くらいは居ただろうか…


全ての話が終わって

最後の懐中電灯が消えた時…


ぎゃあーあーあーあ、あ、あーっ!!


大きな悲鳴が起こった。


その悲鳴で他の子供達も大声を出す。

えーえーえーっ!

きゃあーあーあーっ!!

いやぁーあーあーっあーっ!!!


もう収拾がつかない。

パニック状態になった。





バタバタバタ!!

ガタっ!


パッと電気がついた。


『なに?だれ?どうしたの!!

 なんで男子と女子が同じ布団に居るの!?』

先生が鬼の形相で部屋の入り口に立っている。


あーあ…


私たちのイケない計画がバレた。


結局、その悲鳴は…

男子の先輩が女子を脅かそうとして、

肩を叩いただけだったと判明。


しかし、

先生の怒りは収まらない。


なんと!

残りの2日間、

私たちはゲレンデに行くのを禁止され、

ただただ部屋に閉じ込められたのだ。


『反省しなさい!』


そう言い残し、

先生はゲレンデに行ってしまった。


東京に戻ったら

この悪行が親に伝わってしまう。

どうしよう。


そして、

誰かがポツンと言った。

『このスキー場がなくなったら

 わたし達のことどころではなくなるよね。

 雪崩が起きるよう皆で念じるのはどうかな。』


最初は、

そんなことしても無駄。

念じただけで雪崩なんか起きない。

馬鹿なことはやめよう。


そんな意見に流された。


でも、

閉じ込められた2日間は長かった。


そもそも

『怖い話』ナイトを企画するような私たち。


閉じ込められた部屋では、

またまた世にも奇妙な話で盛り上がり…

雪崩が起きるよう念じてみない?

何故か…

またまた、そんな話になってしまった。


そして部屋に閉じ込められている間、

私たちは念じ続けた。


雪崩が起きますように、と…





あっという間に2日が過ぎ、

東京に帰る日になった。


皆でバスに乗り込み、

関越自動車道を通って、無事に東京に帰った。





今では、

その後、親に叱られたかどうかは憶えていない。


憶えているのは

その数日後に飛び込んで来たニュースだけ。


私たちが居た宿が

ゲレンデごと雪崩に押しつぶされたと言う…