『きゃぁーっ!!

 ヨットから落ちるぅぅぅーっっっ!!

 ひーーーーーーっ』


半裸の私は

大学生が差し出した腕一本にしがみつき、

滑走するヨットに引きずられていた。





それは高校の夏休み。

江ノ島で、友人のお姉さんがやっている

上智大学ヨット部のヨット体験会でのことだ。


仲良しの友人のお姉さんは上智大学生。

たった3歳しか違わないのに、

高校生の私たちから見ると

彼女はグッと大人の女性に見えた。


そんな大人なお姉さんが、

格好良い大学生のお兄さんたちと一緒に

ヨットの楽しみ方を教えてくれる。


そんな楽しげな企画に飛びついたのだ。


天気は快晴。

なかなか風も出ている。


みなライフジャケットを着て

なん艘かのディンギーと言う小型のヨットに

それぞれ乗り込んだ。


青い空!

青い海!!


あっという間に風に乗って

ヨットは颯爽と走り出した。


キラキラと輝く波間。


ひゃあっ!

足をつけたら気持ち良いだろうなぁ…


魔が刺した。





ちょうど大学生のお兄さんに

話しかけられた瞬間だった。


「植村さんはヨットは何回めかな?」

振り返るお兄さん。


波間に足を伸ばす私…


ギョッとするお兄さん。

「ダメーーーーーっ!」


『えっ?』


私が振り返る間もなく

その時、私の足は波間についてしまったのだ…


ズルッ!!


…途端、

身体ごと海に持って行かれたーーーっっっ


!?!?!?


波間に深く刺さった足。

そのまま海に身体ごと引き摺り込まれたのである。


ひえーーーっ、

ヨットから落ちるぅーっっっ!!


『きゃあーあーあーっ!

 落ちるぅーーーっ!!』


叫ぶ私。

焦るお兄さん。


江ノ島沖の広い海。

流石に、

女子高生をここに一人で置いて行く訳には行かない!!


「おっとーっっっ」

ぐぐっ!!


な、な、なんと!

お兄さんはヨットを操縦しながら、

落ちゆく私の片方の腕だけを掴んだのだ。


ひえーーーっ!

引きずられるぅー!!


私は、

片方の腕だけで

ヨットに引きずられながら

海の中を滑走していた。


すっごい波の力で

着ていたパーカーとビキニは押し流され

ギリギリ腰で引っかかっている。

半裸である。


「おーおーおーーーーっ!

 ごめん、操縦やって。」

もう一人の大学生に言うと…


必死で私を助けようとしてくれているお兄さん。


いやいやいやいや、

今、この状態で引き上げられても

恥ずかしいんですけど…


二時間遠泳の経験もあるし、

落ちたら泳いで助けを待つけど…


そんな想いがよぎる私のために

腕に力を入れて引き上げようとするお兄さんは

ひたすら必死。

めっちゃ頑張って下さった。


凄いスピードで滑走するヨットに

腕一本で引きずられる女子高生。


はたから見たら凄い映像だな…

なんとなく可笑しくなって

笑い始める私。


でも、お兄さんは頑張り続けた。

少しずつヨットのヘリから

私の身体を持ち上げるお兄さん。


「うおーおーおーーーっ」


もう一人の大学生は

ヨットのスピードを落とそうと頑張っている。


ひーひーひーっ!!

どうなるの、半裸の私ーーー!!!





大学生のお兄さんは

ジリジリと力を込めて、

な、な、なんと!

私の上半身をヨットまで引き上げ、

観念した私も

胸を隠しながらヨットに這い上がろうともがく。


なんとかパーカーとビキニは

ライフジャケットの下で

腰に引っかかっていた。


腰にたわむ洋服を掴み、

最後の力を込めて私を持ち上げるお兄さん。


ヨロヨロとヨットの甲板に倒れ込む私。





生まれて初めてのヨットの思い出。

それは、思いのほか壮絶なものになった。





※写真と内容に関連はありません。