『植村さんの声が聞きたくて、
また来ちゃったんです。』
18歳の時、生まれて初めてファンが出来た。
びっくりした。
こんな私の声を聞くために足を運んでくれる人が居るなんて!!
胸が熱くなった。
小さい頃は、
毎日、家で絵を描いていた。
勉強していると、
つい近くにあるもの…
消しゴムや机を削って
『腕』や『足』『手のひら』を彫刻して叱られた。
喋るより、
黙って淡々と作業をするのが好きな子供だった。
そんな私が、
大学に入って初めてのアルバイトをした。
雑誌で見つけた
『大塚製薬キャンペーンガール』の募集。
1日に数千円の日当が出た。
“キャンペーンガール”!
それが何なのかも分からず申し込んだが、
面接に行くと…
『植村さん、明るくて元気が良いわねぇ!!
宜しく!頑張って♫』
と…即、採用!!
面接の一週間後。
GW中、代々木公園で行われる
スポーツフェスティバルに行くよう言われた。
朝8時。
スポーツフェスティバル会場の大塚製薬ブース。
そこには沢山の
ポカリスエットとカロリーメイト、オロナミンCとともに、大きなサイコロ、そしてマイクが置いてあった。
大塚製薬のキャンペーンガール!!
サイコロには、
大人気のオロナミンCから
当時はまだ無名だったカロリーメイトまで
商品の写真が貼ってある。
1本のものもあれば3本のものも。
スポフェスに遊びに来る皆さんに大きなサイコロをふって貰って、その数に合わせてプレゼントするのだ。
まさにキャンペーンを進行するお姉さん♫
それが私の役割だった。
喋る仕事とは思っていなかった。
しかし、当時のスポフェスはとても人気で
なおかつGW!!
「なになに?
何か貰えるのー?」的な好奇心で
あっという間に人が集まって来る。
ひぇーっ!!
考えてる時間なんてない!
まず、この状況を伝えなくては!
マイクを握った。
『皆さん、おはようございますー😊
GW如何お過ごしですかー?
良いお天気ですよね!!
さあ!
今から大塚製薬キャンペーン!
サイコロをふってオロナミンCを貰っちゃおう!
スポーツフェスティバル特別、
サイコロ大会を始めますー♫』
口から出まかせの連発!
あ、いやいや、
まるっきり出まかせな訳でもなく…
シナリオも台本もないので、
逆に自由勝手に喋ることが出来た。
とは言え、会場はといえば…
シーーーン。。。
『あれ?拍手がないですねー!
やめようかなぁ?
ここには、こんなに沢山オロナミンCや
カロリーメイトがあるんですけど、
持って帰っちゃおうかなぁ…』
「えーえーえーっ!」
子供がリアクションしてくれる。
やった!
子供が食いついてくれた!
リアクションさえあれば、こっちのもの。
『あれー?君、小学生?学校は?
どこから来たのー?』
反応の良い子で、会場も盛り上がる。
その子自身も嬉しそうだ。
なおかつサイコロをふって大当たりを出して
大塚製薬グッズを沢山持って帰った。
それを見ていた人たち皆が
次は自分がサイコロをふりたくて盛り上がる。
『次にチャレンジしたい人は誰ですかー?
はいはい、こっちに来て下さいね。
今日はお休みですか?
隣に居るのは彼女ですか?』
「えーっ!いやいや母です。」
『あらやだ、冗談ですよ、本気にしました?』
などなど、適当に喋って盛り上げて…
その連続!
めちゃくちゃ楽しい1日を過ごした。
私の言葉で、
喋る相手から笑顔がこぼれ、
だんだんと楽しさが増して、大喜び。
周りの人も盛り上がって笑顔の花が咲く。
その空間が
私自身にとって、めちゃくちゃ心地良かった。
なんて、楽しい仕事なんだろう!!
相手が目の前で喜んでくれて、
なおかつ、そのことで自分も楽しくなる。
笑顔の連鎖。
思いもかけず体験した初めてのこと。
こんなに充実感や、やり甲斐を感じるなんて!
思ってもみなかった。
それからGW期間中
ずっとサイコロをふって貰い
ポカリスエットやオロナミンC、カロリーメイトをお持ち帰り頂きまくった。
毎日、大盛り上がり。
とは言え、
GW期間中には平日も含まれていた。
流石に、
仕事のある日に人出はそんなに多くない。
ところが…
午後3時になると
いつものメンバーが集まるようになっていた。
近所の小学生二人組。
近くでお店の番をしているお爺さん。
それから、営業で走り回っていたサラリーマン。
どんなに人が少なくなっても
3時になると、
スポフェスで顔見知りになった仲間が
サイコロをふりに来てくれ、
場を盛り上げてくれた。
『植村さんの声が聞きたくて、
つい来ちゃうんだよなぁー。』
一生忘れられない
めちゃくちゃ嬉しい一言になった。
それから数年後。
私は就職活動をする年齢になっていた。
喋るのが苦手な私は、
テレビ局のアナウンサー試験に応募した。
