お茶会に行くために着物を着て電車に乗った。
すいていたのでドアのすぐそばに座った。
ターミナル駅に着くと
どっと人がなだれ込んで来た。
次の駅で、
私が座ったドアとは反対側のドアから
お婆さんが乗って来た。
少しヨロヨロしている。
89歳の母とはコロナで会えなくなって2年が経つ。
お婆さんと母がダブって見えた。
電車の揺れで転ばないか…
気が気でなくなった。
お婆さんが立っている前の席では
学生風の若者がお喋りに夢中になっている。
私が座っている席からは
随分と距離がある。
どうしよう。
大きな声を出すのは恥ずかしいし、
お喋りに夢中の学生さんには
嫌味ったらしく見えるだろう。
ガタン。
大きな揺れで、お婆さんが前につんのめった。
見ていられない。
仕方ない。
腹をきめた。
お婆さんをガン見して、
手を振ってみた。
最初は気づかなかったけれど、
だんだんと大きく手を振るようにしたので、
途中でようやく気付いて貰えた。
周りの人も気付いたが、
手を振る私を不審な顔で見ている。
仕方ない。
『どうぞ!』
席を立ちながら、
腹式呼吸で少し大きめの声をお婆さんまで飛ばす。
そこまですると、
周りの人も分かってくれて
お婆さんから私の席まで
通れるように空間を空けてくれた。
『ごめんなさいねー。』
「いえいえ。」
ヨロヨロしながらお婆さんが座る。
すると!
『あ、ごめんなさい、どうぞ!』
若い女性の声が私の後ろから聞こえて来た。
え?
振り返ると…
なんと!
私の隣に座っていた若い女の子が、
「私に」席を譲ろうとしてくれたのだ。
「え?私ですか?いや、大丈夫ですよー。」
『あ、でも、お着物で大変ですよね。
気付かなくて、ごめんなさい。』
「着慣れていますから大丈夫です♫
有難うございます。
お気持ち、嬉しいです。」
私は元気いっぱいで
着物で立つのも大変ではなかったので、
席は辞退をしたけれど…
めちゃくちゃ嬉しかった。
『周りの人への心遣い』が伝播したようで
嬉しい気持ちでいっぱいになった。
『気遣い』は周りに感染するのだ。
誰かの優しさを見たら
自分もしなければ!!
そう考えてくれる人が居る。
そう思っただけで
気持ちが温かくなった。
街を歩いていると
ぶつかりそうになった人から
『邪魔やねん!』などと小さい声で言われたり
舌打ちをされたりしたことがある。
みんな自分のことしか考えていない。
悲しい気持ちになった。
そんな世の中を一気に変えることは出来ない。
でも!
自分の周りだけなら!!
自分がすることで少しはマシに出来ることがある。
それはとても小さな事だけれど
そんな小さなマシなことが伝播して
どんどん感染して広がって行ったら
世の中は少しずつ変わって行くのかもしれない。
嫌なこともあるけれど
自分の周りを少しだけマシに出来たら。
優しい気遣いの気持ちを広げて行けたら。
世の中はもっと住みやすくなるかもしれない。
自分の出来ることなんて小さいけれど、
毎日、少しずつ世の中をマシにすることは出来る。
一人一人が自分の周りだけ
少しずつ良くしていけたら…
そう考えながら
今日も、
自分の出来る小さなマシなことを探しながら生きる。
少しだけ良く出来ること
あなたの周りで
探してみませんか?