お正月の2日と言うと

今でも思い出すのは救急病院での一夜です。


ニュースの現場は365日休みはありません。

日々発生する事件事故をお正月も伝え続けます。


入社して数年は、

若手が年末年始の報道を守る役割を担います。


それは、忘れもしない

入社して2年目の1月2日。

夜勤当番が回って来ました。



夕方と23時以降の2回、

夜勤担当のアナウンサーはニュース番組で

関西のローカルネタを伝えるのが使命です。


その日も夕方のニュースを無事に伝え終わり

会社の社員食堂に行きました。



そもそも、

その2週間ほど前から予兆はあったのです。


学生時代から大好きだった牡蠣。

アナウンス部の先輩たちと忘年会に行きました。

そこで出て来たのが立派な生牡蠣!!

レモンを絞ってちゅるんっ♫

大好物なので次から次に頂き、

クイズ大会などもあり大盛り上がりしました。


そして二次会。

夜も23時近くになり、

急に胸が苦しくなりました。


あれ?

飲み過ぎたかな。


と感じてからみるみるうちに

今度は息が出来なくて

無理矢理、呼吸をしようと過呼吸になりました。

驚いた先輩たち。


介抱して貰っていると

今度は突然、気持ちが悪くなり

トイレへ…


すると!!

ビャビャビャッッッッ!!!


便器に到着するや否や、

胃の奥からエイリアンが飛び出たかと思うほどの勢いで、胃の内容物が放射されます。

『吐く』と言うより『放射』

勢いよく便器に当たり跳ね返る吐瀉物…


あ、お正月早々すみません💦


そんな放射を続けるうちに

体力がなくなりヘロヘロに…


あまりのことに先輩たちも青ざめ

そのままタクシーで

救急病院に連れて行って貰ったのです。



その晩、同じ牡蠣を食べた他の先輩には

何も起きませんでした。

もともと大好きでよく食べていた牡蠣です。

たまたま、その日、私が食べた牡蠣の個体に問題があったのだろうと言うことで、点滴を打って、薬をもらって帰りました。



そして、その1週間後。

今度はプライベートで

誕生日に有名な日本料理店に行きました。


牡蠣好きの私のために

友人が美味しい生牡蠣を用意してくれていたのです。

忘年会で酷い目にあった話はしていませんでした。


私にとっては大好きな牡蠣!

前回はたまたま食べた牡蠣が悪かったから

大変なことになったけれど、

ここは高級料理屋さんです!!


目の前には立派に太って

プルプルして美味しそうな牡蠣が並んでいます!!!

もう迷う余裕すらなく、

新鮮なレモンをキュっと絞り、立派な殻を掴んで、

ちゅるんっ♫


はあ、あ、あ…

美味しい☆


並んだ生牡蠣、全部、頂いちゃいました。


ところが…

またまた23時近くなると

嫌な感じがして息が荒くなって来ました。


あ、来る。

流石に2回目は身体が覚えています。


『ハアハア…

 ごめん。ちょっとトイレ…』

同じように過呼吸から始まり、

激しい放射へ…

そして、撃沈。


今度は救急車を呼んで頂きました…。

とほほ。



そんなこんなの正月2日の夜勤だったのです。


話を社員食堂に戻します。

お正月から働くスタッフで溢れる食堂。

調理をして下さる方の人数もお正月で少なく、

用意されたメニューは一つだけでした。


『牡蠣鍋』

え…

メニューを見た我が目を疑いました。


な、な、なんと!

『牡蠣鍋』一択!!


えーえーえーっ!


流石に、この2週間で酷い目にあった牡蠣を

また食べる勇気が最初は出ませんでした。


でも、お正月2日の夜です。

周りのお店もまだやっていません。


えーっ…

お正月早々、何も食べられないなんて悲しすぎる。


よくよく考えると…

今まであたったのは『生牡蠣』。

これは火が通っている。

牡蠣鍋だから、他にも具が入ってるので、

牡蠣以外のものを食べたら良いのではないか???


半ば自分を説得するように

社食の列に並びます。


ところが、目の前に出てきた牡蠣鍋の中身は

キャベツと牡蠣のみ!!


えーえーえーっ!

牡蠣以外って、キャベツだけじゃん…


ショックを受けながら

テーブルにつき、

最初はキャベツばかりを食べていましたが

とっても寂しくなって来ました。


キャベツだけなんて。

小学校で飼育委員長をしていた時、

ウサギさんがキャベツを美味しそうに食べていたのが目に浮かびました。

私はウサギか…


火も通っているし、

一口だけならイケるかも。


一口だけなら…

ハムっ。


そうです。

正月早々のキャベツ責めに耐えかねて

一口だけ牡蠣を食べてしまったんです。



そして、

アナウンス部に戻って夜勤の準備をしていると…


あ…

来る…


時計を見ると23時。

どうも、

牡蠣を食べて4時間後に発症するようです。


ハアハアハアハア…

過呼吸が始まります。


ニュースのオンエア時間は

23時50分。


うあーっ!

あと50分。

今更、誰かに助けを呼んでも間に合わない!

今、読売テレビに居るアナウンサーは私だけ!!


「植村さん、身体が何かに反応している時、

 血液中の白血球が増えているんです。

 そんな時はポカリスエットとかを大量に飲むと

 血液中の白血球濃度が少しだけ薄められます。

 一時しのぎはポカリです。」


何回かお世話になった

救急病院の先生の言葉がよぎります。


大急ぎでポカリスエットを買いに行き、

ごくごくと飲み干します。


上がっていた息が、

少しだけおさまって来ました。


ニュースのオンエア時間に合わせて

大量のポカリスエットを飲みながら

メイク室で化粧直しをして

何事もなかったように報道デスクに座り、

原稿の下読みをします。


また少し息が上がって来ました。

ポカリスエットを買い足して飲みます。


く、く、苦しい…


幸い、ローカルニュースの時間は4〜5分です。


カメラの前のニュース卓に移動する時も

ポカリスエットは手放せません。


なんとか呼吸を整えながら

カメラに映らない場所にポカリを置いて…


10秒前。

9、8、7…

『こんばんは。ニュースをお伝えします。』


ひーっ!

なんとかニュースを数本お伝えし終わり、

報道デスクに挨拶を済ませ、

そのままタクシーに乗って

またまた救急病院へ直行!!!



『植村さん。

 これは牡蠣の問題ではありません。

 植村さんは牡蠣のアレルギーなんです。

 血液中の白血球が98000になってます。

 これ、大変なことです。

 もう牡蠣を食べるのはやめて下さい。』


今でも、その日の晩、

お医者様から言われた言葉が耳に残っています。


本当に申し訳ありません。


あれだけ好きで沢山食べ続けた牡蠣。

火が通っているものですら一生食べられないなんて…


悲しい現実を突きつけられた

正月2日の思い出です。



皆さん!

アレルギーの原因物質は避けましょうー!

どんなに好きなものでも!


あ、すみません。

当たり前のことでした…。