『なぜメリル・ストリープはトランプに噛みつき、オリバー・ストーンは期待するのか』 | 渡る世間にノリツッコミ リターンズ(兼 続日々是鬱々)

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フリーライター江良与一のブログです。主にニュースへの突っ込み、取材のこぼれ話、ラグビー、日常の愚痴を気の向くまま、筆の向くまま書き殴ります。

 

 

映画好きが嵩じて、一時はシナリオ教室にまで通ったことがあるという朝日新聞記者氏による、アメリカ映画評集。

 

作品の紹介だけではなく、題名どおりトランプ大統領とハリウッドの軋轢についても述べている。 アメリカの一大産業である映画は、長年にわたりアメリカの正義こそが世界の正義であるという思想を発信し続けてきた。政治的な信条をストレートに伝えるのではなく、アメリカの暮らしの豊かさを描くことで、資本主義の甘美さを説いた。

 

たとえほんの一握りの人々しか味わえない甘美さであっても、ハリウッドが発信し続けた、圧倒的な物量による豊かな生活の像というのは、いつかは手に入れたい生活の見本として、世界中の一般大衆をひきつけた。そして、躍動するヒーローやヒロインはいくつもの困難を乗り越えて、敵に必ず勝ってきた。エイリアンであれ、実在の国であれ、敵とされた勢力は徹底的に悪く描かれ、アメリカの唱える絶対的な正義の体現者であるヒーローやヒロインが勝利する姿に感動を覚えた人々は、アメリカこそが絶対で、その意向に逆らうものは皆悪だから打ち殺して構わない、という空気が醸成されるのだ。一神教を信じる国の怖さである。

 

 最近の作品は、主人公の家庭に問題があることも多い。これは社会の姿の反映なのだろう。それだけ、アメリカにおいては一夫一婦制が機能しなくなってきているということだ。世界の平和も大切だが、家庭の平安だって大切だ。で、その思想を背景に、難敵を倒す姿を見た妻(または夫)及び子供が主人公に惚れ直して、最後は裏庭でバーベキューやるとか、夫婦して子供のスポーツの試合を観てる、などというハッピーエンドが描かれるのだ。 

 

ところが近年では、こうしたハリウッドの勝利の方程式ならぬ「ヒットの方程式」がなかなか通用しなくなってきた。イスラム過激派組織というものが存在し、テロ行為を行うことや北朝鮮という独裁国家が挑発的なミサイル発射を繰り返しおこなったりしているので、絶対的な悪という役どころを投影しやすい状況にはあるのだが、アメリカ人が豊かな生活を満喫するという状況ではなくなってきた。貧富の差の拡大や、根強い人種差別、治安の悪化等々、一般庶民が生活に不安と不満を持つ要素は数多い。 

 

こうした不満をうまく救い上げた形のトランプ氏が、その品格に欠ける言動にも関わらず大統領にまで登りつめてしまった。自国第一主義を掲げる同氏は、つい最近もパリ協定離脱を表明し、ますますアメリカ・ファーストを強化している。 こうした国際協調に欠ける姿勢は数多の批判を呼んだが、映画人もご多分に漏れず、トランプ批判をする人物は多い。題名にも登場するメリル・ストリープはアカデミー賞の授賞式のスピーチで堂々とトランプ批判をやってのけ、これに対しトランプ氏がSNS上で応戦するなどで話題となったのは記憶に新しい。

 

一方で、彼を支持する動きもあるそうだ。『プラトゥーン』など、戦争を描いた作品の多いオリバー・ストーン監督がその代表格。ベトナム戦争を始め、各地の紛争に米軍が出向き、身も知らぬ他国の民のために血を流すのはもうたくさんだ、という感情を持つ人々が一定数いるというのも理解は出来る。自衛隊が海外に派遣された際の、隊員たちの家族の涙を考えれば、理解しやすい心情であろう。

 

いずれにせよトランプ政権は走り始めてしまった。今後の彼への支持がどう変遷していくのか?に着目しながらハリウッドを眺めてみるという新しい視座を与えてくれた一冊だった。