本稿では、地方自治体の消防職員の階級について解説する。総務省消防庁は、自治体の消防のような階級制度は存在しないが、総務省幹部が自治体消防の訓練を視察したり行事に出席する場合などには、消防官の制服と、その胸に階級章に準じる扱いの 徽章(きしょう) を着用する場合もある。

 

概要

 消防士の階級は、総務省消防庁の政令である「消防吏員の階級の基準」(昭和37年5月23日消防庁告示第6号)の第1条によって定められる。同条には、「消防吏員の階級は、消防総監、消防司監、消防正監、消防監、消防司令長、消防司令、消防司令補、消防士長及び消防士とする。」と規定されている。

 原則として自治体の設置する消防本部管内で業務が完結するが、政令市レベルの消防本部の場合は、隣接自治体への応援や、JICAなどの関連国際機関などを通して研修生の受け入れや海外における大規模災害の応援を行なっている場合もある。

 総務省消防庁がそれぞれ自治体ごとの階級の基準を決めてはいるものの、警察庁と各都道府県警察のように総務省消防庁から幹部として地方の消防に出向したり、幹部人事権を掌握することは無く、総務省消防庁の職員は消防政策・各種消防基準・消防技術の検討・監督を行なう。そのため、総務省消防庁の職員が実際の災害現場に入ることは原則として無い。
 

 

消防士の階級

 消防士(正式には「消防吏員」{読み:しょうぼうりいん} ) の階級を以下に挙げる。なお、消防副士長については警察の巡査長に相当する名誉職的な階級であるが、わかりやすくするためこの項に含める。一部の総務省消防庁の資料では、消防副士長と消防士をまとめて「消防士」として扱っているケースがある。

○消防総監

 東京都を管轄する東京消防庁の長のみが称することのできる階級。自治体の全ての消防士の中で唯一階級と職名が一致する。またこの階級の呼称「消防総監」は、東京都警察の長である「警視総監」にならって命名された。警察でいえば、警視総監に相当する。

役職…東京消防庁消防総監(東京消防庁の本部長)



○消防司監

 各政令指定都市に設置される消防局の消防長にこの階級の消防士があてられる。警察でいえば、警視監に相当する。

役職…東京消防庁次長、政令指定都市の消防局長



○消防正監

 消防士200人以上、または管轄地域人口30万人以上の大規模消防本部の消防長にこの階級の消防士があてられる。警察でいえば、警視長に相当する。

役職…東京消防庁本庁部長、東京消防庁方面本部長、大規模消防本部長



○消防監

 消防士の数が100人以上、又は管轄人口が10万人以上の市町村の消防長に、この階級の消防士があてられる。
 警察でいえば、おおよそ警視正に相当する階級であるが、全国の消防職員のうち消防監以上の階級の職員か1.1%であるのに対し、都道府県警に所属する地方警務官(いわゆる警視正以上の警察官)がおよそ0.1%である事実を踏まえると、警察組織の警視正よりは広き門といえる。

役職…東京消防庁参事、東京消防庁方面副本部長、東京消防庁消防署長、大規模消防本部部長、大規模消防本部の消防署長、中規模消防本部長



○消防司令長

 消防士の数が100人未満、および管轄人口10万人未満の両方の条件を満たす小規模消防本部の本部長に、この階級の消防士があてられる。全国の消防職員のうちの3.7%を占める。警察でいえば、警視に相当する。

役職…東京消防庁副参事、東京消防庁分署長、東京消防庁副署長、大規模消防本部課長、大規模消防本部副署長、小規模消防本部本部長



○消防司令

 消防司令補として一定の経験を積んだ後に、昇任試験に合格して昇任する。規模などによっては、試験ではなく選考で昇進する消防本部も存在する。全国の消防職員のうちの13.4%を占める。警察でいえば、警部に相当する。

役職…消防本部課長補佐、出張所長、消防隊中隊長



○消防司令補

 消防士長として一定の経験を積んだ後に、昇任試験に合格して昇任する。規模の小さな消防本部では、この階級が試験によって昇任できる最後の階級となることもある。全国の消防職員のうちの25.9%を占め、全国の消防職員の8割超が消防司令補および司令補以下の階級である。警察でいえば、警部補に相当する。

役職…消防本部主任、小規模消防本部課長補佐、小規模消防本部係長



○消防士長

 消防職員の最下位の階級である消防士として一定の経験を積んだ後に、昇任試験に合格して昇任する。全国の消防職員のうちの27.7%を占める。警察でいえば、巡査部長に相当する。

役職…消防本部副主任、小規模消防本部主任、消防隊分隊長



○消防副士長

 全国の消防職員のうちの10.3%を占める。消防職員の最下位の階級である消防士として、およそ10年経っても消防士長に昇任しない消防職員が任命される名誉職的階級であり、その階級の運用方法は、警察の巡査長の制度によく似ている。

 総務省の資料においても、階級最下位の消防士とこの消防副士長の階級を、区別する例としない例の両方の表現が見られる。
 ごく小規模な消防本部では昇任試験で副士長に昇任させるケースがあるが、これは極めて稀なケースである。

役職…消防本部係員、小規模消防本部副主任、消防隊員



○消防士

 消防職員としての最下位の階級である。全国の消防職員のうちの18%を占める。消防学校で初任研修を修了後に、各消防本部に配属される。
 消防学生が各消防学校に入学した際に執り行われる入学式で、すでにこの消防士の階級章を着用していることから、消防職員として採用された時点でこの階級に任じられるものとみられるが、実際の現場に配属されるのは消防学校の初任教育の養成期間である6か月を経過してからである。

 警察でいえば、巡査に相当する。

役職…消防本部係員、消防隊員