3月19日。いよいよ正式譲渡の日だ。
猫ママさんと待ち合わせをして、Aさんのお宅に向かう。おじゃまする前に、お宅の周辺を歩いた。万が一ルナちゃんが逃走したときに、身を隠す場所の当たりを付けやすくするためだ。猫は車道や人通りの多い方面には逃げず、茂みや建物の陰などにとりあえず身を隠し、そこからさらに、塀やフェンスに沿って逃げることが多いという。人間には通れない隙間も猫は楽々と通り抜けるので、人間の行き止まりが猫の行き止まりとは限らない。
約束の時間には少し早かったけれど、Aさんのお宅のチャイムを押し、おじゃました。完璧な逃走防止の扉を見て、ルナちゃんがこのお宅から逃走することはほぼないだろうと再度確信する。
ルナちゃんのケージが置かれている部屋に入った。ルナちゃんは猫こたつの中にいた。「ルナちゃん」と呼ぶとこちらを見たが、こたつから出てこない。「何?」という表情をして私の顔を見ている。でも、威嚇せず触らせてくれる。相変わらず穏やかだ。
ジジ君とルナちゃんの関係を猫ママさんの目で見ていただいた。ずっとひとりで過ごしてきたジジ君にとってルナちゃんは初めての女子で、それがジジ君にとって珍しくうきうきする出来事だというのに間違いなさそうだ。いまは離れた部屋に置いてあるルナちゃんのケージを、いつもAさんとジジ君のいるリビングに移動したいとAさんは考えているそうで、そうすれば、ジジ君とルナちゃんの関係はさらに近くなるだろう。
ルナちゃんがこれからAさんのお宅でどのように変わってゆくのか、うちにいたころには見られなかった姿を見せることもあるだろう。それをAさんから聞ける日が楽しみだ。
正式譲渡のために必要な「譲渡誓約書」はお届けのときに取り交わしたので、基本医療費をいただく。中央区の基本医療費は「中央区 飼い主のいないネコ達」
のサイトに掲載されているので、それを参考にした。
猫ママさんからFIP(猫伝染性腹膜炎)についての説明があった。FIPは、猫の体内にあるコロナウイルスがある日突然変異してFIPウイルスになり、ストレスなどで免疫の低下したときに発症する可能性がある。コロナウイルスは外の猫だけでなくブリーダーから迎えた猫も持っている可能性があり、発症すると死に至る恐ろしい病気だが、コロナウイルスのすべてが突然変異するわけではなく、ストレスのない生活をしている限りFIPウイルスへの変異は少ない。また、万が一FIPウイルスに変異したとしても、ストレスをかけず、きちんとした食事の管理と排便排尿チェックをしていくことで、FIPの初期症状の沈鬱、食欲減退などに早く気がつけば、病気に対する対応を早い段階でとることもできる。関係ないと思うのではなく、病気について知っていることが大切だ。
正式譲渡のための手続きと一通りの話が済み、人懐っこいジジ君の姿を見ながらお茶をいただいたら、あっという間に1時間が経っていた。そろそろ失礼する時間だ。
最後にまたルナちゃんのケージを覗いた。こたつのなかでくつろいでいて、出てこない。私の顔をじっと見たけれど、すりすりはしてくれなかった。私はすでによそのおばさんらしい。それでいい、それでいいよ。
ルナちゃん、いいおうちにもらわれて、本当に良かったね。末長く幸せにね。